テニスラケットの科学(12)
 ストリングは、何が、スゴイのか?

① ストリングの素材が異なっても、張り方(張った時のテンション)が違っても、ボールとの反発係数は変わらない!

その理由は、ストリング面がたわむ(変形する)ほど、面剛性が高くなるからです。
自動車の衝突を考えると、わかりやすいと思うのですが、衝突により簡単につぶれてしまうと、エネルギ損失が大きくて(衝突のエネルギが材料をつぶすのに使われる)、結果として、反発係数が低減して、跳ね返りが小さくなります。すなわち、衝撃低減になるわけです。
衝突において、エネルギが失われなければ、反発係数は1.0(100%)です。ボールとの衝突において、ストリングの変形によって失われるエネルギは非常に小さいのです。ストリング単独の反発係数、たとえば、鉄のハンマとの衝突では、反発係数は1.0(100%)に近い値を示します。
ボールとストリングの反発係数は、ボールの変形量(衝突速度)で決まり、ボールの変形量(衝突速度)が大きいほど、低減します。(川副2002)

② ボールに回転(スピン)をかけることができるので、ボールを自在にコントロールできる。

スピン性能は、長い間、謎でしたが、高速度カメラとコンピュータ画像解析技術の進歩により、この10年の間に、新事実が明らかになってきました。
スピンについては、改めて、後で、説明させていただきます。

③ 音や振動、手の感触などを楽しむことができる。

弦楽器の構造をしているからです。個人個人のいろいろな好みがあるようです。

図は、ボール、ストリング、およびボールとストリング面の合成バネの、変形量と硬さの関係を示しています。
一般的なバネの場合、点線で示したように、変形が大きくなっても硬さ(バネ剛性)は変化しませんが、ボールやストリングのバネは、変形が大きいほど硬くなるという非線形性を持っています。(川副ら1992、Kawazoe et.al 1997)
ボールのバネ剛性が、2段階で硬くなるのは、第一段階は主にゴムの変形によるもの、第二段階は空気バネの圧縮によるものです。ボールバネの硬化も反発性能にはとても重要ですが、テニスラケットの科学(13) で説明させていただきます。

1-画像:ボール、ストリングのバネとしての硬さ(面剛性)-非線形性-(川副1992)