テニスラケットの科学(43)  滑りやすいストリング断面形状とスピン挙動

国際テニス連盟(ITF)や米国ストリンガー協会(USRSA)は、過度のスピンを制限するルール変更も視野に入れて、多くの種類のガットについてヘッド固定面にボールを斜め衝突させる実験を行い、ストリング面に40度の角度でボールを入射した実験では、ポリエステルのスピン量がナイロンより多いこと、60度では逆に少ないことを示し、トップ・プロはポリエステルを使って40度の角度で強烈なスピンを打っているのではないかと推測しています。(Goodwillら,2006)

トップ・スピン性能改善に対して、テフロン加工したもの、断面を扁平形状にしたもの、滑りやすくコーティングしたものなど、明らかに滑りやすいストリングのメカニズムの利点を活用するために設計されたと思われるガット(ストリング)が国内外の多くのメーカーにより次々に市販されています。

図1は、従来の円形断面と扁平断面ストリング(ゴーセン)の例です。

動画1は、固定されたラケット・ヘッドに張られたストリングに40度の角度から100 km/h の速度でボールを斜め衝突させたときのスピン挙動を高速カメラで撮影した映像(1260 fps)です。円形断面と扁平断面(商品名FGガット)の場合を比較しています。(ゴーセン提供)
無回転のボールが右から入射して左に跳ね返ります。ボールがストリングスに接触すると、扁平断面(商品名FGガット)の場合は、5本の縦糸が横にずれてボールが回転しながらストリングスを離れていく様子が見えます。
従来型の円形断面は、縦糸が3本しか横にずれておらず、ボールの回転量も新型・扁平断面に比べて少ない結果になっています。

動画2は、ストリング面の斜め方向から見て、従来の円形断面と新型の扁平断面のスピン(回転)挙動を比較しています。(ゴーセン提供)

詳細に見ると、扁平断面型は、縦糸が横にずれて元に戻る間にボールに顕著な回転が見られます。
ストリング面を離れると次第に回転は加速します。
扁平断面型は、円形断面型に比べて、スピン量が多いために、ボールが遅れてストリングスを離れています。
ボールが当たった直後の初期加速段階では、扁平断面ガットのスピン量は円形断面ガットの24 % 増になっています。
(川副ら2010、川副2011)

扁平断面は、円形断面に比べて、縦糸と横糸の交差点のノッチ(溝)ができにくいことが予想されます。

1-画像:従来の円形断面と扁平断面ストリングの例(ゴーセン提供)

2-動画:固定されたラケット・ヘッドに張られたストリングに40度の角度から100 km/h の速度でボールを斜め衝突させたときのスピン挙動(ゴーセン提供)

3-動画:ストリング面の斜め方向から見て、従来の円形断面と新型の扁平断面のスピン回転挙動を比較。(ゴーセン提供)