テニスラケットの科学(144)  テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(24):「理系なテニス」(2) なぜサービスは「下から上に打つ」のか? (ボールを打つ縦方向の角度とボールの軌道に関連して)

タイトルに惹かれて『勝てる! 理系なテニス 物理で証明! 9割の人が間違えている“常識”(2018年発行)』を拝読し、前回は、その序文に関連して(異見あり)を紹介させていただきました。

理系なテニス 真実を知る勇気”には、項目1:“なぜサービスは「下から上に打つ」のか?”において、“理論物理学の専門家Mさんの見解を聞きたいと考えたのです。”ということで、項目2:“ストロークも「上から下へ」は物理的に間違い”という解説があります。“私は物理学者ですから、まずは自分がどうこう考える前に、徹底的に資料を集めて、調べて、テニスを研究しようと思いました。”で始まって、“高さ3メートル(266センチ)くらいからでないと、上から下に打ち下ろしてサービスをボックスにいれることはできないことが、理論物理学でもわかっています。” と直角三角形の相似則を使って結論づけられていますが、(異見あり!)です。

ボールがラケットを離れた瞬間から、そのボールがどこへ飛んでいくかは、30年前にBrodyがすでに指摘しているように、物理学の法則が決定します。飛んでいるボールに作用する力は三つあって、重力と、空気抵抗と、マグナス効果とよばれる力です。重力がなければ、ボールはコートに落ちてきません。空気抵抗はボールの速度を遅らせます。マグナス効果はボールの進行方向と直角に作用します。これらをパラメータとしたシミュレーションがBrodyの一般向け著書でも紹介されており、15年前のCrossらの一般向けの著書においても、トップスピンのサーブとフラットサーブの速度を変えて、打点高と打ち出し角度を変えた時のボール軌道のシミュレーションが紹介されています。

「理系なテニス」における「直角三角形の相似則」を使った解説は、理科、あるいは物理学とは言えないですし、「徹底的に資料を集めた」とも言い難いですね!

サービスは「下から上に打つ」は、多くのテニス書にも書かれており、今や常識かと思いますが、腕の動き、ラケット・ヘッドの動き、ボールが飛ぶ角度と軌道の話は、明確に区別して、それぞれ別々の説明をしないと、読者に誤解を与える恐れが十分にありますね!

添付図(*)のように、ラケット・ヘッドの高さ2.7m(180センチのプレイヤーを想定)から時速177kmのサーブを打つ場合、フラットサーブもトップスピンのサーブも、水平より下向きに(ボールが飛び出す角度が)打たなければサービスボックスに入らないことを示しています。

*2019-0525-サーブ177キロ軌道-TechTennis2005Cross-edit kawazoe
From Technical tennis, Rod Cross and Crawford Lindsey, 常盤泰輔[訳]、丸善、(改図-kawazoe)