テニスラケットの科学(292)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(36)
:【ストリング選びに役立つ基礎用語】(1)「スナップバック」

 テニスマガジンONLINE  【ストリング選びに役立つ基礎用語】 2020-10-21* は、初心者には親切な記事だとは思いますが、 「スナップバック」、「テンション」、「反発性」、「ポリエステル」の項目の解説には異見あり!です。
(1) 「スナップバック」
” ボールがフェースに当たった瞬間にストリングがボールに押されて食いつき、戻ることでボールに勢いと回転を与える現象のこと。ストリングを硬く張るとあまり動かず、柔らかめに張ると大きく動く。ただし、柔らかすぎると、逆にスナップバックしなくなってしまう”と解説記事に書いてありますが、
 これは誤解です。
 異見あり!です。
「ストリングが動く量の大きさが問題なのではなく、インパクトでの(ボールを打撃したときの)テンション(張力:ちから)の大きさが問題です。
 これがスナップバックの原動力です。
 インパクトでのテンションが大きい方が、当然、打球速度だけではなく、スナップバックの力(ちから)も大きくなります。」
 したがって、インパクトでのテンション(張り上げテンションではないことに注意してください!*)が大きいほど、スピン量も大きくなります。
* 
・ ストリングを張ったときのテンションでボールを打撃するという勘違いが、まだ、多いようですが、インパクトでのテンション(張力:ちから➡ 復原力)は、張り上げテンションではなく、スイング速度、ラケットヘッドの速度でほぼ決まります!
・ インパクトのテンション(ボールを押し出す力)が大きいほど、打球速度は速くなります。
・ たわみが大きくても、テンション(張力:ちから)が小さければ、打球速度は遅くなります。
  たわみが小さくても、テンション(張力:ちから)が大きければ、打球速度は速くなります。
 結論としては、張り上げテンションの影響は少なく、張り上げテンションが違っても、インパクトでのテンションはほとんど違いがないことになります。
➡ 
● ストリングの接線方向復原力は(ボールを打撃したときのインパクトにおける)ストリングのテンションの大きさ(硬さ)と変形の大きさの積( F=KX、ただしKは硬さ、Xは変形量)であらわされます。
 ストリングを硬く張るとあまり動かず、柔らかめに張ると大きく動くので、「ボールを弾くストリング面の復原力は張り上げテンションが違っても変わらない」ことになります。
 図1は、摩擦の小さなストリングが摩擦の大きいストリングよりも、スナップバックが大きいことを示す実験です。
 縦糸(メイン)が横糸(クロス)の上を自在に滑ると、縦スピン(トップスピン、アンダースピン:スライス)がかかりやすく、ボールコントロールが容易になるようです。
  縦糸と横糸の重要性がわかってきました。

(追記)2023年11月13日
 図1:(日本語訳:川副)
  川副は,ボールがガットに衝突する瞬間を繰り返し40~50コマずつキャプチャーすることで,潤滑剤を塗布したストリングがボールとともに滑り,ボールから離れると元の位置に戻ることを確認した.
 (ラケットの面に平行な)接線方向に撓んだストリングがまっすぐの状態に戻る際,より大きなエネルギーがストリングからボールに伝えられ,より強力なスピンを生み出していた.
 このことは,ボールがストリングから離れる際の回転(スピン)の超スローモーション映像から容易に計算できた.
 2006年と2007年に発表された技術的な研究論文の中で、国際テニス連盟(ITF)の研究者は,潤滑剤を塗布したガットで川副が確認したのと同じ動きがコーポリ(ポリエステル系ストリング)でも発生することを報告している.

図1

(参考資料)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-298/
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-299/
・テニスラケットの科学(300):プロのストリンガーも知らないストリング:「スナップバック」の源流と用語の起源(5) :New String Theory(新しいストリング理論)3
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-300/

●(蛇足)”縦横”の意味の深さ!
:奇策縦横、機略縦横、才弁縦横、縦横自在、縦横無礙、縦横無尽、馳騁縦横、知略縦横、

● 図2は、摩擦の小さいポリエステルが、摩擦が大きいナイロンよりも、スピン量が大きいことを示しています。
 テンションの影響は見られません。

図2

(ご参考までに)
事例2:テニスの新しい物理学 | 川副研究室-KAWAZOE-LAB
https://kawazoe-lab.com/…/perf…/performance-prediction3/
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2020-10-21 TENNIS 【ストリング選びに役立つ基礎用語】  テニスマガジン編集部