テニスラケットの科学(234)
:スピンとストリング(32)
: プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション
:(張り上がり)面圧と(インパクトにおける)面圧―まとめ
ストリングの「テンション(張り上がり)」と「いわゆる面圧」(物理的には、ストリング面の硬さ、ストリング面剛性、ストリング面バネ剛性の意味)の関係について、多くのご質問をいただいていますので、まとめさせていただきます。
・「面圧」(俗称)は、名称からは圧力の単位のように見えますが、バネの単位です。
すなわち単位の長さだけ変形させる(たわませる)のに必要な力です。(図2の式を参照)
・ また、張られた状態(無荷重、変形なし)でのストリングの面圧を考える人が多いのですが、打球に関係するのは、インパクト(大荷重、大変形)における面圧です。
・ 張られた状態(無荷重、変形なし)でのストリングの面圧は、テンションに比例して、テンションが高い方が面圧も高くなります。(図2の式を参照、X=0)
・ しかし、打球するときは、ラケットの面圧(ストリング面の硬さ、ストリング面剛性、ストリング面バネ剛性)は、「衝突速度」、すなわち「ストリング面の変形量(たわみ)X」の二乗にほぼ比例して高くなり、 衝突前の硬さの数倍まで変化します。
張り上がりテンションが影響するのは、衝突速度が極めて小さい場合(ドロップショット?)だけです。(図2の式を参照、X^2に比例)
・図2の面圧の式の導出方法は、図3(付録)に示しています。
たとえば、図4で45ポンド、55ポンド、65ポンドの場合を比較すると、衝突速度が10m/sでは65ポンドが面圧は最も高く(もっとも硬く、変形量は最小)、20m/sになると3者の面圧はほぼ同じで(45ポンドは変形量が最大、65ポンドは変形量は最小)、30m/sでは45ポンド(変形量は最大) が65ポンド(変形量は最小)よりわずかに剛性が高くなります。
すなわち、実際的なインパクトでは、張られた状態(無荷重、変形なし)のときのテンション(張り上がり)の高い、低いは(インパクトのときの)「面圧」にはほとんど影響しなくなります。
衝突速度が大きいほど、「面圧」は高くなります。
・また、ストリング面がたわむほど、フレーム面に対して、ストリング面の角度が大きくなるので、ストリング面は変形しにくくなります(多くの力が必要になる)。
一方、ボールも、つぶれて容積が小さくなることから想像できるように、衝突速度が30m/秒を超えると、非常に硬くなり、ストリング面もボールも、衝突速度が30m/秒を超えても実際的な衝突速度では変形(たわみ量)が(面が大きくないラケットでは)25mm(以上にはなりません。
・ ボールとラケットの接触時間は、ストリングの面圧に逆比例して、面圧が高いほど短くなります。
したがって、接触時間も、衝突速度が非常に小さい15 m/秒以下では、(張り上がり)テンションが高いほど短くなりますが、実用範囲の衝突速度では、(張り上がり)テンションの違いは接触時間にほとんど影響しなくなり、接触時間は衝突速度が大きいほど短くなります。