テニスラケットの科学(459)
研究の思い出
:機械系学生の情報誌・メカライフ特集
:「スポーツ工学」(1996年)
:テニスのインパクトの謎を解く (概要:その7)
● 図8は、超軽量トップヘビー(フレーム重量275g、張り上がり重量290 g )と従来重量型バランス(フレーム重量345g、張り上がり360g)のラケットについてボールの飛びをシミュレーション予測した例です。
ストリング面上の数値は、同じスイングで、面上のそれぞれの位置でボールを打撃したときの打球速度を表しています。
飛びの良い領域を濃淡で濃く示しています。
両ラケットの打球(フェイス)面積は100平方インチです。
手と肘の関節角度を一定に保って肩だけに一定の回転トルクを与えて毎秒10mで飛来するボールを打撃すると想定しています。
このスイングは未熟練者のグランド・ストロークに近いですが、スイング速度はかなり速い方です。
また、ストリング面の長さ方向の中心線上を大きく外れると、ラケットはその中心線周りに回転運動をします。
先端側では、中心線上を大きく外れても、中心線周りには回転しません。この場合は、中心線上で打撃した場合と同じく、グリップ周りに回転します。
オフセンター打撃の場合、ストリング面の打撃位置によってラケットがどのように回転するかは、ラケットの仕様によって異なります。
フレーム振動に関しては、中心を外れたオフ・センターでは、ラケットの振動モードの節の位置が微妙に影響しており、ストリング面の斜めの位置での衝突では、フレームのねじり振動成分もやや大きくなります。
● ストリング面の中心近くでボールの飛びが良く、超軽量ラケットの方が打球は速いことを示しています。
しかし、実際のプレーでは、スイング速度が十分に確保できるような状況であるか、あるいは確保できない状況であるかによってボールの飛びは違ってきます。
相手に攻め込まれてバックスイングが深く取れなくてスイング速度が速くない場合は、反発力の良いストリング面のやや根元側の方が打球速度は速くなり、従来重量バランス型の重めのラケットの方が、反発力があるので、打球は速くなります。
一方、相手を攻めていて、バックスイングが深くとれて、十分なスイングができるときは、ヘッド速度の速い軽量ラケットの方が
、反発力は劣っても、打球速度は速くなります。
・反発力、あるいは反発性能とラケットのパワー(ボールの飛び)、打球速度)性能を同じものと勘違いしている解説が多く見られますが、この両者はまったく別物です。
したがって、ラケットの性能は、状況によって、あるいはプレイスタイルによって、反発力とヘッド速度のトレード・オフによって打球速度(ラケットのパワー)が決まります。
●(参考文献)
(1) 川副嘉彦、手で支持したテニスラケットの実験的同定とボールとの衝突における振動振幅の予測、
日本機械学会論文集、 C編 第61巻584号、 1995年、 pp.1300-1307.
(2) Yoshihiko KAWAZOE, Effects of String Pre-tension on Impact between Ball and Racket in Tennis,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.43(1994), pp.223-232.
(3) 川副嘉彦、ラケットはどう選ぶべきか,ラケットの科学II-⑧、
月刊テニスジャーナル,13巻4号(1994年4月号), pp.101-106.
● 追記
スイング・モデルについては、別稿で紹介させていただきます。