テニスラケットの科学(460)の補足1
研究の思い出
:機械系学生の情報誌・メカライフ特集「スポーツ工学」(1996年)
:テニスのインパクトの謎を解く
:「手で支持したテニスラケットの実験的同定とボールとの衝突における振動振幅の予測」
:1995年度日本機械学会賞(論文賞)
● 解説記事・メカライフ特集「スポーツ工学」(1996年)掲載「テニスのインパクトの謎を解く」 の源(もと)になっている上記の論文*は、1995年度日本機械学会賞(論文賞)を受賞しています。
* 川副嘉彦、手で支持したテニスラケットの実験的同定とボールとの衝突における振動振幅の予測、日本機械学会論文集、 C編 第61巻584号、 1995年、 pp.1300-1307.
● 教育・研究・学内外の業務、子育て・週末のテニスなどに超・忙しい時期に、今書いておかないと書かないままになってしまうかも知れないと思って、夜中の時間を利用して慌てて書き上げた論文です。
テニスに関する論文が機械学会の査読に通るかどうか気にしながら投稿したのですが、思いがけず、大変面白い論文だというコメントを査読者からいただき、機械学会の懐の深さに敬服しました!
したがって、日本機械学会賞の受賞は想像もしないことでした。
その後の研究や科研費獲得が各段に容易になり、とても感謝しています!
●1995年度日本機械学会賞(論文)受賞紹介記事
(日本機械学会誌1996年5月号掲載)
“
「手で支持したテニスラケットの実験的同定とボールとの衝突における振動振幅の予測」** 川副嘉彦
テニスにおけるラケットとボールの衝突現象は,ボールとストリングスの大変形およびフレームの振動をともなう非線形の力学であり,接触時間および反発係数はストリング面上の衝突位置および衝突速度に依存する.
現実の打撃ではさらに人間系が絡んでくるので,現象は複雑である.
ラケットの性能向上を目指して従来から多くの実験と歳月が費やされてきたが,ラケットの物理特性と性能の関係には不明な点が多く,現段階では工学がラケットの設計に関与する余地は少ない.
したがって,現実にはラケットの性能は深い経験を持つプレイヤーの打球感覚により評価されている.
本論文では,手で支持したラケットおよびボール・ラケット系への実験モード解析の適用と衝突モデルの詳細な吟味に基づいて,ハンドル(グリップ)を手で握った状態でのラケットの反発性能の予測法と予測例を示した.
非線形衝突の本質をとらえた簡単なモデルが本論文の特長であり,大変形をともなうボールとストリングスの特性は非線形として扱い,振幅の小さいラケット・フレームの振動モデルは線形系として実験的に同定し,接触時間にはフレーム振動と腕系がほとんど影響しないという事実を考慮している.
この衝突モデルを用いて,反発係数とエネルギ損失の関係から,ハンドルを手で支持したラケットのフレーム初期振幅と反発係数および反発力を予測し,グリップ自由(宙づりラケット)の場合と比較した.
手で支持したラケットのボールとの衝突におけるフレーム振動の初期振幅は宙づりラケットの場合とほとんど差がないこと,反発係数に関しては腕系を同定する必要がないこと,反発性能は手で支持した方がグリップ自由の場合より,打撃点に換算したラケットの換算質量が増すために,ストリング面の先端側でやや高いことなどを明らかにした.
* 本論文は、日本機械学会論文集、61-584、C編(1995-4)、1300ページに掲載。
“