テニスラケットの科学(492) (備忘録) テンションとプレイのマッチング 1995年版(6): Part5  テンションの秘密を科学で探る 実験結果と実際のスウィングの印象の間で、 ギャップはなぜ 起こるのか ③

(2) テンションが低いほど、反発が良いとは限らない
“ これらの矛盾を明らかにするために行われた実験報告(グロッペル1987年*)があるので、ストリングスの影響が単純ではないことを理解しておく意味で、結果を少し詳しく紹介しておこう。
 (*著者注:グロッペル氏は、バイオメカニクスの専門家で、博士号をもつプロのテニスコーチとして著名です。米国テニス協会のスポーツ委員会の委員長を務めたこともありました。)
 この実験では、グリップを固定してストリング面の中心に、 23.1 メートル/秒(以下 m/s)の速度でボールを衝突させ、このときのボールの跳ね返り速度、ボールの変形量、接触時間(インパクト・タイム)などを測定している。
 ラケットについてはミッドサイズとオーバーサイズ、ストリングスについてはナイロンと天然ガットについて、テンションを40ポンドから80ポンドまで変えて調べている。
 ナイロン・ストリングスをミッドサイズのラケットに張った場合のおもな実験結果は、以下のようになっている。
 反発速度は、テンションが50ポンド、40ポンド、60ポンド、80ポンド、70ポンドの順で大きい。
 もっとも反発が良いのは50ポンド、もっとも反発が悪いのは70ポンドであり、両者の反発速度の違いは約10%である。
 これでは、緩く張るほど反発が良いとは言い切れない(この結果は、本誌1993年7月号にも紹介してある)。
 ボールの変形の大きさはどうなっているかというと、変形が小さいのは、テンションが50、40、70、80、60ポンドの順である。
 一般には、ストリングを強く張るほどボールの変形が大きいと言われているが、この実験結果は、かならずしもそうなっていない。
 また、インパクト・タイム(ボールとストリングスの接触時間)はどうかというと、接触時間が長いのは、テンションが60、40、70、80、50ポンドの順である。
 接触時間が最も長いのは60ポンド、もっとも短いのは50ポンドの場合である。
 ようするに、一般にストリングスを緩く張るほど、ボールの変形は小さく、接触時間は長くなり、反発が良いと理解しているプレイヤーが多いと思うが、かならずしも実験結果はそうはなっていないのである。
 以上は、ミッドサイズのラケットの場合であるが、オーバーサイズのラケットではどうかというと、反発が良いテンションは40、50、60、80、70ポンドの順になっている。
 40ポンドから70のポンドの間では、緩く張るほど反発は良いという結果が出ている。
 もっとも反発の良い40ポンドの場合と、もっとも反発の悪い70ポンドの場合の反発速度の差は約6%しかない。
 ただこの程度の差で、はっきりと反発の違いを実感できるかどうかは疑問が残る。
 さらに、天然ガットの場合はまた異なっている。
 たとえば、ミッドサイズのラケットの場合、ナイロンでは50%の場合がもっとも反発が良かったが、天然ガットでは60ポンドのときもっとも反発が良いという結果がでている。
 このように、テンションと反発の関係はすっきりしていない。
 ラケットのサイズやストリングスの種類によって結果が異なっている。
 テンションを55,65,75ポンドと変えた場合、フレームが硬いラケットではボール速度は変わらないが、柔らかめのラケットでは、55ポンドのときもっとも反発が良いという別の実験報告もある。
 テンションと反発の関係には、ラケットの質量分布(バランス)や衝突速度の影響も当然考えられる。
 このように実験結果にばらつきがあるのは、そのためだ。

(続く)
(参考資料)
テンションとプレイのマッチング:Part5
テンションの秘密を科学で探る
実験結果と実際のスウィングの印象の間で,ギャップはなぜ 起こるのか
川副嘉彦,月刊テニスジャーナル 1995年10月号,pp.55-60.