テニスラケットの科学(553)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(54)
:プロのストリンガーも誤解しているインパクトでのテンション(1)
:ラケット性能とストリング・テンションの役割と重要性
● 最近のテニス雑誌記事*のストリング・テンションに関するQ&A(図1)
”Q: 楽に飛ばしたいのでテンションを下げようとしたら、知人にコントロール性能が落ちると言われました。本当ですか?”
という質問に対する回答は、根拠がなく、科学的知見(学術論文)とも相容れないもので、読者に混乱・誤解を与える心配が大いにありますので、「異見あり!」です。
* 【テニスストリング基礎知識 vol. 71」 スマシュ 2023年5月号、49頁。
● プロのストリンガーも誤解しているインパクトにおけるテンション
・ 原因は、張った時のテンションとインパクトでのテンションが同じだと勘違いする大誤解!にあります。
・ ボールを飛ばすのは、張り上がりテンションではなく、インパクトでのテンションです!
●(図2)
プロのストリンガーも誤解しているインパクトにおけるテンション
インパクトにおけるテンションと反発力(復原力)の力学
・ 反発力(復原力)F=S sin θ
ただし、S:インパクトにおけるテンション、 θ:ストリング面のたわみ角度
・ 張った時のテンションでは反発力は、ゼロ。
・ インパクトでのテンションの大きさで打球速度が決まる。
・ インパクトでのテンションの大きさを決めるのは、ラケットのヘッド速度。
・ ヘッド速度に比例してテンション、すなわちストリング面の反発力が決まります。
● (図3)
プロのストリンガーも誤解しているインパクトにおけるテンション
インパクトにおけるテンションと反発力(復原力)の力学
・ 張り上げテンション So ( たわみ量 X=0 )では、 ストリング面の反発力 F はゼロです.
* 張り上げテンション So の役割は、ストリング面を平面に保つことです。
● ストリング面の 張り上げテンション(So)、ゲージの太さ(直径 A)、素材の硬さ(ヤング率 E)、インパクトにおけるたわみ量 Xが大きいほど、 反発力(復原力) F は、大きくなります。
* ただし、張り上がりテンション(So)、ゲージの太さ(直径 A)、素材の硬さ(ヤング率 E)が大きいほど、インパクトにおけるたわみ量 X は小さいので、反発力(復原力) F は、両者のトレードオフになります。
実験やシミュレーション結果によると、
素材、ゲージ太さ、張り上げテンションは、反発力にほとんど影響しません。
●(追記1)
「ストリング・テンション」については、長年にわたって、繰り返し、多くのご質問がありますので、次稿では、「反発力」、「ボールの飛び」、「スピン」などの性能におよぼす「張り上げテンション」の影響について、「プレイヤーによる実打実験」、「ラボ(実験室での)実験:ヘッド固定の衝突実験、ハンドル固定の実験」、「理論解析(コンピュータ・シミュレーション)」などのデータをまとめてご紹介させていただきたいと思っています。
● (追記2)
記事の回答には、
”テンションを縦横一緒にして2~3ポンド下げる”、
”操作性に影響の出ない範囲で1~3グラムラケットを重くする”、
”ストリングを高反発の種類に変える”
などの質問者(テニス歴4年)へのアドバイスがありますが、コントロール性能には無関係でしょう!
● (追記3)
記事の回答には、
”ナイロンストリングを46ポンドで張っている方が、2~4ポンド程度落とす場合は飛びやすくなりますが、5ポンド以上テンションを変える場合、プレー自体に大きな影響が出てきます。”という回答がありますが、このような実験結果や報告はないようですし、理にかなっていないですね!
さらに、
” ポリストリングを張っている場合は、ナイロンに比べて素材が硬いため、低いテンションでもコントロールしやすいですが、フルパワーで打った際はストリングが咬みすぎてボールが飛ばない場合もあります。”
という回答も、ほんとうでしょうか?
「コントロール」の定義も必要ですが、そのような報告をみたことがありません。
(参考資料)
・テニスラケットの科学(325)
テニスラケットの科学(325) :スピンとストリング(69) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :再度テンションの大誤解を解く(その3) | 川副研究室-KAWAZOE-LAB
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-325/