テニスラケットの科学(555)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(55)
:プロのストリンガーも誤解しているインパクトでのストリングの基礎知識
Q:スピンがうまく打てるストリングを教えてください(中学1年・テニス歴1年)

● 最近のテニス雑誌記事*のストリングに関するQ&A(図1) ”Q:  相手と打ち合うときにスピンがうまく打てるストリングを教えてください(中学1年・テニス歴1年)”という質問に対する回答は、初心者に対してきわめて不親切で、混乱・誤解を与えるだけで、実験データや学術的な知見の裏付けもなく、「異見あり!」です。
 * 【テニスストリング基礎知識 vol. 72」  スマシュ 2023年6月号、49頁。

図ー1


●異見1
 ・ストリングの細い方がスピンがかかりやすいという実験データは無いようです。
(図2)実験データによると、ストリングの太さの違いは、スピン量に影響しません。

図―2


  参考までに(図3):ストリング素線の太さの違いによる打球速度の違いも無いようです。

図―3


●異見2
 ・ナイロンが、他の素材と比べて、腕の負担が低いというデータはありません。
 ・インパクトにおいて硬い素材はたわみ量が少なく、軟らかい素材はたわみ量が大きく、結局、衝撃力は、ボールとラケットの運動量(ラケット重量と衝突速度、ラケットが同じなら衝突速度)に依存するからです。
 ・インパクトにおける衝撃の大きさは、反発係数に比例します。
  ストリング単独の反発係数の測定値は、0.97(エネルギ回収率95%に相当)程度で、素材、太さ(直径)、テンションによる違いはなく、ITFの科学技術会議でも報告されています。
 ・論文などの信頼できる文献でも、ボールとストリング面の反発係数の素材による違いはないというのが最新の知見だと思います。
●異見3
・張り上げテンションの低い方がストリングの縦糸の移動量が大きく、張り上げテンションの高い方が縦糸の移動量が小さいかもしれませんが、スピンをかけるための接線方向の張力も、垂直方向の反発力と同様に、インパクトの衝突速度の大きさによるので、テンションの違いによるスピン量の違いはありません。
(図4参照)

図―4


●異見4
・ ” 平均で46~52ポンド、そこから3~5ポンドずつ調整して、自分のスイングスピードに合ったテンションを見つけてください”という回答には、何の根拠もなく、中学1年・テニス歴1年の初心者へのアドバイスと言えるでしょうか?
●異見4
・ ” 性能が落ちているストリングを使用してしまうと適正なストリング強さがわからないので、定期的な張り替え(ポリ1か月、ナイロン3ヶ月毎)も大切です”という回答は、「性能が落ちているテンションとは何か?」、「適正な強さとは何か?」という説明もなく、技術も経験も未熟な1年生に対して、不適切なアドバイスですね!
 本人が特に違和感を感じなければ、1年生にとっては、ストリングは何でもよくて(今やナチュラルを凌駕したと言われるポリエステルが無難!)、張替にお金を使うより、個人レッスンなど(?)、技術の習得の方が優先でしょう!