テニスラケットの科学(588)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる⑦
:打球速度とスピンの生成原理(例4)
「使用済みストリングは(ストリングが古くなると)、ボールが飛び過ぎる!」のはなぜか?
(新しいストリングと古いストリングのスピン性能とボールの飛びのメカニズム)

● 図1

図―1

・ ラケット・ヘッドを固定したストリング面にボールを衝突させる実験では、新しいストリングと古いストリングの反発係数には違いはありません。
 しかし、使用済みのストリングは、新しく張り上げたストリングに比べると、ボールが飛び過ぎると言われることがあるようです。
 打球速度が速いこと自体は何も問題はないはずで、むしろ望ましいはずですが、インパクトで生成されるスピン量と打球速度(打球の速さと方向)を分析すると、その理由がよくわかります。
・ 「新しいストリングと古いストリングの反発性に違いがないのに、古いストリングは新しいストリングよりもボールが飛ぶと言われることがあるのはなぜか?」、
 その理由を、打球速度とスピン量の生成メカニズムに基づいて、インパクトにおけるベクトル図を使って、以下に説明させていただきます。

● 図2

図―2

・ 「ストリングは古くなっても反発性能は低減しない」という3つの実験を紹介します。
① ヘッド固定のボールとの衝突実験(ナイロン)
② プレイヤーによるボール打撃実験(ナイロン)
➂ プレイヤーによるボール打撃実験(天然ナチュラルガット)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-324/

● 図3

図―3

 実証実験①
・ 図は、ストリングの反発係数(COR)の寿命に関するR Crossら(2010)の実験結果をグラフ化したものです。
 ストリング素材は、ナイロン1:Wilson NXT、 ナイロン2:Tecfiber NGR2、 4年ナイロン:4年経過したナイロンです。
・ ストリングは、古くなっても(4年経過)反発係数は低下しません。
(参考資料)
・テニスラケットの科学(10)
 ストリングは、古くなっても(4年経過)反発係数は低下しない(実測結果)
https://kawazoe-lab.com/tenn…/science-of-tennis-racket-10/

● 図4

図―4

 実証実験② 
 ・使用後のストリング(ナイロン)は、新品に比べて、スピン性能の低下が顕著です。
・スピン量が増えると、打球速度は低減します。
(参考資料)
テニスラケットの科学(38)
 国際テニス連盟(ITF)が関心を示すストリング潤滑剤とスピンの関係(1):フォアハンド・トップ・スピン打撃における実験例
https://kawazoe-lab.com/tenn…/science-of-tennis-racket-10/

● 図5

図―5

 実証実験➂ ナチュラル(天然ガット)でのトップ・スピン打撃実験
・ 使用後(Used)のナチュラルガット性能は、
 新品(New)と比べて、スピン量の低減が著しく、打球速度(パワー)は低減しないで増大しています。
(参考資料)
テニスラケットの科学(355) :「日本ラケット工業協同組合」の”テニスストリングの張替タイミングはいつ?”に「異見あり!」(5)
https://kawazoe-lab.com/tenn…/science-of-tennis-racket-10/

● 図6

図―6

「使用済みストリングは(ストリングが古くなると)、ボールが飛び過ぎる!」のはなぜか?
(新しいストリングと古いストリングのスピン性能とボールの飛びのメカニズム)
(注)図中の「Old」という表現は、「Used」という意味です。
・ 実験データによると、ストリングは使用するほど「スピン性能」は低減しますが、「反発性能」は、ストリングが古くなっても、低減しません。
 一方、使用済みの古いストリングは、新しいストリングに比べて、「ボールが飛び過ぎる!」といわれることがあるようです。
 このメカニズムをインパクトにおけるベクトル図で解説させていただきます。
・ 図は、インパクトにおける飛んでくるボール速度とスイングによるラケットヘッド速度(大きさと方向)、およびラケット面の角度が同じとして、新しいストリングと使用済みの古いストリングのラケットを使用した場合のスピン量と打球速度を示しています。
・ ラケットの特性(重量分布、剛性分布、バランス、スイングウェイト、ハンドル上のグリップ位置、ストリング面の打点位置など)のすべてが反発力係数eの中に含まれています。
 この場合の例は、ストリング面上のほぼ中央、スイートスポットで打撃した場合で、反発力係数eは約 0.4 です。
・ スピン量が大きい場合は、ボールのラケット面に対する反射角が小さく、スピン量が減ってくると反射角が大きくなって、厚い当たりになります。
・ この例では、スピン量が低減した古いストリングの打球方向は、新しいストリングと比べて、水平から上方向になっています。
・ ボールがストリング面を離れた瞬間の打球の速さは、古いストリングの方が 2 % だけ速いだけですが、スピン量が 60  % 程度減っており、水平線からの打球の方向が、新しいストリング 上方 4 度に対して、上方 12 度になっているので、明らかに飛距離が大きくなることが予測されます。
・ ただ、スピン量が低減した古いストリングの方が、ラケットヘッド速度の方向に近いので、飛距離の正確な調整はしやすいのかもしれません(?)。
・ 新しいストリングの場合は、打球の方向が低いうえに、スピン量が大きいので、ハードヒットしても十分コート内に収まることが予想されます。
(参考資料)
テニスラケットの科学(586)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる⑤
:打球速度とスピンの生成原理(例2)
:反発力係数 e が打球速度(速さと方向)とスピン量を変える!
:ストリング面のスイート・スポット(e=0.4)で打撃した場合と先端側(e=0.2)で打撃した場合の打球の速さと方向とスピン量の比較
https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-582/