テニスラケットの科学(704)
:インパクト(反発速度とスピン速度)におよぼす(張り上げ)「ストリング・テンション」の影響 (再度,ご質問に答えて!)
:質問 「ストリングは硬い、柔らかいで飛びがどう変わるか?」
:質問 「ストリングの硬さ、柔らかさでスピンのかかりやすさは変わるのか?」
:実験データ(論文)*の追加
:「張り上げテンション」に 40ポンド と 70ポンド の違いがあっても, 反発力性能とスピン性能に違いはない!* * Effect of string tension on the impact between a tennis ball and racket, S.R. Goodwill, S.J. Haake, The engineering of Sport 5, Volume 2, pp.3-8, 2004.
ストリングに関して最も多いご質問は,現在でも,「ストリングは硬い、柔らかいで飛びがどう変わるか?」
「ストリングの硬さ、柔らかさでスピンのかかりやすさは変わるのか?」です.
ネットで回答を検索すると,プロ・ストリンガーさんやテニスショップのベテランの店員さんによる解説でも,「一般的に柔らかい方が飛びが良くなります!」という根拠のない主観的な回答が多く,特に,スピンに関する回答は様々で,相反する回答も数多くあるようです.
「張り上げテンションに 40ポンド と 70ポンド の違いがあっても,反発力性能とスピン性能に違いはない!」という結論の理由は,簡単に言うと,「張り上げテンションに 40ポンド と 70ポンド の違いがあっても,インパクトにおけるテンションや面圧にはほとんど違いがない」からです.
「インパクトにおけるテンションは,インパクトにおけるラケットヘッドが速いほど,大きくなります」
「打球速度は,インパクトにおけるテンションが大きいほど,速くなります」
テニスボールとラケットのインパクト(衝突)におけるストリング・テンションの影響については,反発速度やスピン速度,特に反発力のメカニズムについては,すでに数多く紹介させていただいていますが,これらの参考記事**に追加して,さらに学術論文に掲載されている実験データ*を紹介させていただいて,ご質問の回答の代わりにさせていただきます.
図1
:宙づりラケットのストリング面の目標位置に,衝突速度を変えて,ボールを斜め衝突させて,反発速度(跳ね返り速度)とスピン速度を測定する実験装置(概略図)
図2
:張り上げテンション40ポンドと70ポンドの宙づりラケットのストリング面の目標位置に, 衝突速度を10m/s~43m/s(時速36キロ~155キロ)まで変えて, ボールを斜め衝突させたときの反発速度(跳ね返り速度)の測定結果
:(張り上げ)テンションに 40ポンド と 70ポンド の大きな違いがあっても,どの衝突速度でも,反発力性能(反発速度)の違いはありません.
図3
:張り上げテンション40ポンドと70ポンドの宙づりラケットのストリング面の目標位置に,衝突速度を10m/s~43m/s(時速36キロ~155キロ)まで変えて,ボールを斜め衝突させたときのスピン(回転)速度の測定結果
:(張り上げ)テンションに 40 ポンドと 70ポンド の大きな違いがあっても,どの衝突速度でも, スピン量(スピン速度)の違いはありません.
(注) ボールを斜め衝突させたときのスピン(回転)速度の測定結果
は,バラつきが多いようですが,これは,実験誤差ではなく,ボールとストリング面の衝突実験に本質的なバラつきです.
ストリング面への微妙な違いによって,スピン量はかなり影響されます.
貴重な実験データを引用させていただきました論文著者の Haake 博士と Goodwill 博士に感謝します.
I would like to express my gratitude to Dr. Haake and Dr. Goodwill, the authors of the paper from which I have cited valuable experimental data.
(追記)
この論文が発表された国際会議(2004年米国にて開催)は,私も論文を提出し,査読も済んでいましたが,突然の「頸の傷害(頸椎椎間板ヘルニアのために2カ月の入院リハビリ)」のために出張を中止せざるを得ず,発表を聴くことも,討論に加わることもできませんでした.
この論文集には私の論文も2件***掲載していただき,超分厚い2巻の論文集には,退院後,目を通していたのですが,退院後は超忙しくて,再度,ページを開くことはほとんどなく,貴重な実験データーを紹介する機会を逃していましたが,先日,偶然,目に留まりましたので,20年前の思い出が懐かしくもあって,投稿させていただきました.
(参考記事)**
・テニスラケットの科学(8)
:グリップ自由の(手の支えのない)ラケットにボールを衝突させたときの各打点の反発力係数
(実測値とシミュレーション計算値)
https://kawazoe-lab.com/tenni…/science-of-tennis-racket-8/
・テニスラケットの科学(4)
ストリング:取り付け時のテンションとインパクトにおけるテンション
https://kawazoe-lab.com/tenni…/science-of-tennis-racket-4/
・テニスラケットの科学(3)
手持ちラケットと宙吊りラケットのボールとの衝突シミュレーション
https://kawazoe-lab.com/tenni…/science-of-tennis-racket-3/
・テニスラケットの科学(7)
:ストリング・テンションと反発力係数
https://kawazoe-lab.com/tenni…/science-of-tennis-racket-7/
・テニスラケットの科学(206)
:スピンとストリング(4)
:ストリング・テンションと反発係数(パワー)についての誤解の歴史
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-206/
・テニスラケットの科学(223):スピンとストリング(21) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :ストリング・テンションと反発力係数(ラケットの反発性能)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-223/
(参考記事)***
・Computer aided performance prediction and estimation system for a tennis racket in terms of power and stability.
Yoshihiko Kawazoe、
Engineering of Sport 5, Volume 2, pp.633-640 (2004), International Sports Engineering Association
https://kawazoe-lab.com/…/computer-aided-performance…/
・Performance prediction and estimation system for tennis racket in terms of player’s wrist joint shock vibrations
Y. Kawazoe · F. Casolo · R. Tomosue · K. Yoshinari、
Engineering of Sport 5, Volume 1, pp.393-399 (2004) , International Sports Engineering Association
https://kawazoe-lab.com/…/performance-prediction-and…/