テニスラケットの科学(707)
:(再度)ストリング・テンションの役割について
:振動や音色を楽しむ「弦楽器」としての「張り上がりテンション」と「打撃用具」としての「インパクトにおけるテンション」

 ストリングの(張り上げ)テンションとラケットの反発性能や打球速度の関係については,ご質問や誤解が多いので,再度,ポイントを図1~図8に,参考記事を末尾に,また関連実験例(論文)を1件紹介させていただきます.

 ウッドラケットの時代は,70平方インチの小さい打球面に60ポンドのテンションで張るのは普通でしたから,現在の100平方インチなら85ポンドくらいに相当するのではないでしょうか?(強度的に心配なので誰も張りませんが)ボルグ選手が70平方インチのラケットに70?,80ポンド?で張っていた時代です.
 テニス雑誌やネットなどで,ストリングをゆるく張るとボールが飛ぶ,強く張ると飛ばないという専門家の解説が,現在でも,多く見られますが,昔は,逆の解説が多く見られた時代もあったことからも,張り上げテンションとラケットの反発力がほとんど無関係だということが容易に想像?できると思います.

 ラケットに振動止めを取り付けたり,プレーヤーが耳栓をつけたら,上級者でも,20ポンドの違いがあっても,ほとんど識別できないという実験例(論文)*もあります.

*(論文) “ Player sensitivity to change in string tension in a tennis racquet ”, R. Bower and R. Cross, Journal of Science and Medicine, Vol. 6, pp. 120-131 (2003)
  すなわち,プレーヤーが感じるストリング・テンションは,ストリングの反発力の感覚ではなく,インパクト後の残留振動や音色による感覚であり,振動や音色がなければ,テンションの違いを識別することが難しいことを示しています.

 (追記)
・「弓と矢」に例えると、「弓を引くときの弦のテンション(張力)が大きいほど、 放たれる矢は速く飛ぶ」
・「弓を引くときのテンション(張力)は、「張り上げテンション」で決まるのではなく、「弓を引く力」で決まる。
 弓を引く力が同じなら,「張り上げテンション」が異なっても,放たれる矢の速度はほぼ同じでは? (振動や音色は異なっても)「弓を引く力」は,テニスラケットの場合は,ボールとラケットの衝突力に対応します.
 打球に影響するのはストリングのたわみ量の大小ではなく,「衝突力,復原力」(力:ちから)の大小です.

図1:
 ストリング・テンションに関しては、昔から数多くの研究があるにもかかわらず、時代とともに多くの俗論・通説の変遷がある!
 なぜか!
➡ プロのプレイヤーもストリンガーも誤解している(?)
 テンションの意味!

図ー1


図2:
 ストリングのテンション(張力)の意味
・張り上げテンション:張るときの荷重(張力)
  ☞ ➡ 弦楽器としての性能
・インパクトでの(ボールを跳ね返すときの)テンションが
 ☞➡ 反発力(ボールを跳ね返す復原力)
になる!

図ー2


図3:
 ストリングの性能
① 弦楽器としての性能(振動・音)
:(張りあがり)テンション
:ボールと接触していないとき
(インパクト後にボールが離れた後に残る)
② 打撃用具(武器)としての性能
 (反発力:ボールを跳ね返す力、反発速度)
:インパクト(ボールを打撃したときに働く)テンション
*プロのストリンガーが熟知しているのは、「弦楽器としての性能」では?

図ー3


図4:

図ー4


図5:
 ストリングの(張り上がり)テンションがラケットの反発力、
打球速度に影響しない物理的な理由

図ー5


図6:
 ボールとストリングの復原力特性の測定
 荷重(インパクトにおけるボールとラケットの衝突力に相当)が大きいほど,ストリング・テンション(復原力)は大きい.

図ー6


図7:
 ボール(つぶれ)とストリング面(たわみ)に対応する
ボールのバネ剛性とストリング面のバネ剛性(面圧)

図ー7


図8:
 ・ インパクトにおいて,
 高い張り上がりテンションは,ストリングの伸び(変形量)がやや小さく(テンションの増大がやや少ない)、 
 低い張り上がりテンションは,ストリングの伸びがやや大きい(テンションの増大がやや大きい)ので、 結局、  衝突速度で決まるインパクトでの(リアル)テンション:ストリング面の反発力は、
 ほとんど違いがないことになる。

図ー8

 

(参考記事)
・テニスラケットの科学(257)
:スピンとストリング(55)
:プロのストリンガーも誤解しているストリング
:なぜプロは試合中にラケットを替えるのか - ストリングの武器としての性能と弦楽器としての性能のメカニズム(実験と理論に基づく考察) - (テニス学会2016  横浜2016.12.09 講演PPT抜粋)―01
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-257/
・テニスラケットの科学(661)
:  フェデラー選手の弦楽器としてのテニスラケット
:  横糸ポリエステル上の縦糸ナチュラルを滑らせて弾く
:  スピン量を抑えて音色を楽しむ?
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-661/
・テニスラケットの科学(606)
:インパクトにおけるストリング・テンション(張力)の事実
:張り上げテンション(設定・初張力)ではなく、(インパクトでの)リアル・テンション(張力)がボールを弾く
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-606/
・テニスラケットの科学(483)
:(備忘録) ラケットの打撃用具(打具)としての性質と弦楽器としての性質
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-483/
・テニスラケットの科学(267)
:スピンとストリング(65)
:プロのストリンガーも誤解しているストリング
:なぜプロは試合中にラケットを替えるのか 
- ストリングの武器としての性能と弦楽器としての性能のメカニズム(実験と理論に基づく考察) -
(テニス学会2016  横浜2016.12.09 講演PPT抜粋)―11
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-267/
・テニスラケットの科学(262)
:スピンとストリング(60) :プロのストリンガーも誤解しているストリング
:なぜプロは試合中にラケットを替えるのか - ストリングの武器としての性能と弦楽器としての性能のメカニズム(実験と理論に基づく考察) - (テニス学会2016  横浜2016.12.09 講演PPT抜粋)―06
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-262/