テニスラケットの科学(709)
:テニスラケットの科学(468)の補足2
:テニスに関する博士論文*被引用部分の紹介(サーブ時のボール速度と回転数の関係)
:(研究小史)
 ・テニスにおけるサーブの変遷
 ・ラケットおよびストリングがボールの挙動に与える影響

 佐藤文平(博士論文)*,1章,Ⅰ-2節 「研究小史」はよくまとめられていますが,被引用部分に要・修正部分(希望?)が1カ所あります.
* 佐藤文平(博士論文) 日本人一線級テニス選手におけるドップラー・レーダー追跡システムを用いたサーブ時のボール速度と回転数の関係,日本体育大学大学院,(2020年12月)
” 
Ⅰ-2-ⅰ項:テニスにおけるサーブの変遷

” 川副 18)は、ラージ・ボールがインパクト時に上肢に与える衝撃振動について、手関節に装着した加速度センサによって得られる情報から、ラリーにおけるラージ・ボールは空気抵抗の増大によって 速度が低減し、インパクト条件が同じであれば、衝撃振動も低減することを明らかにした。
 これらの結果からも、打具を用いて行う競技においては用具(ラケット、ストリング、ボール)の性能がボールの各種挙動に及ぼす影響は大きく、サーブパフォーマンスを分析する上で重要な要素であると思われる。

” Ⅰ-2-ⅱ ラケットおよびストリングがボールの挙動に与える影響
 テニスの原型となった競技は、13 世紀にフランスで行われていた素手でボールを打球し合う「ジュ・ド・ポーム」である。
 その後、素手からラケットでボールを打ち合う競技へと 発展した。
 川副 20)は、ラケットに求められる基本的な性能は、一般的にパワー、コントロール、打球感 21)であり、ラケットの進歩がプレースタイルを変えたと述べている。
 ラケットは、フレーム(枠)にストリングが張られたものであるが、物理学的には、ボールがラケットに衝突した時にボールが変形し、フレームがしなり、そしてストリングが撓んだ後の復元時に生じる弾性エネルギーの合成によってボールが飛んでいく。

” 打具を用いるテニスでは、ラケット(フレーム素材やストリング)がボールに与える影響は大きい。
 川副ら 26)は、ストリングの摩擦が大きいほど回転がかかるという仮説を立てて(要修正:川副らが仮説を立てたのではなく,ストリングの摩擦が大きいほど回転がかかるというのが一般的な仮説だったが**川副注釈)、
 3 種類(New: 新品、Used: 使用済み、Lubricated Used: 潤滑剤を塗布済み)のストリングにおけるボール速度、回転数および打球面接地時間について計測を行なった。
 超高速ビデオ画像解析 (10000 frames/sec)から得られた結果から、ストリングの摩擦が小さいほど縦糸と横糸が お互いにすべってボールがストリングに食いつきやすく、横に伸びた縦糸が元に戻りやすいので元に戻るときの復原力(スナップバック効果)により回転がかかりやすいことを報告した(図 3)。
 また、
 ストリングのテンションは、ほとんど回転数に影響しないこと 22, 27) や、打球時にストリング同士が食い込むことで刻まれる傷(以下ノッチ)のない未使用のス トリングが、ノッチのある使用済みのストリングよりも高い回転数を示していることが明 らかとなっており 28)(図 4)、ボールの速度と回転数は、ストリングとボールがどのように 衝突するかによって決定されるため、高い反発性に加えて、ボールコントロールに関係する回転を得るためのホールド性(食いつき)がストリングに求められる。
 この事は、速度と回転数を同時に満たさなければならないことから、常に二律背反の性能が求められるといっても過言ではない。
 ストリングの歴史のなかで特筆しておきたい事は、「ダブル・ストリン グス・ラケット=スパゲッティストリング」29, 30)の出現である。
 1977 年ラケットに「スパ ゲッティストリング」を張って、ランキング 200 位の選手が 4 位の選手を破ったことで倫理規定論争が起こり、1978 年に ITF はその使用を禁止したという歴史がある 31)。
 その後、 ルールが改正され、縦糸と横糸が交互に織られていないラケットは、公式戦では使用できない事が明記された 32)。
 Goodwill and Haake 33)は、従来使用されているナチュラルガット(ス トリングテンション: 40Ibs、70Ibs)とシンセティックストリング(ストリングテンション: 40Ibs、70Ibs)を用いたラケットと、“スパゲッティ”ストリングシステム”を用いたラケットから生み出された回転数の比較計測を行った結果、“スパゲッティ”ストリングシステムは、縦糸が横糸面上で滑りやすく、通常のストリングに比べて約 2 倍の回転数があると述べた(図 5)。
 また、プロ選手とアマチュア選手では、新品のナチュラルガットでトップ スピンを打球した場合、プロ選手が 1.6 倍(60 %)多い回転数で打球しており、その際の打球の速度の差は少ないことを明らかにし 27)、ストリングの特性を引き出すための打球技術の重要性についても示唆している(図 6)。

図3* 
● 被引用部分に要・修正部分(希望?)が1カ所あります.
  平均誤差(誤)➡ 平均値(正)
図4* 
* 佐藤文平(博士論文) 日本人一線級テニス選手におけるドップラー・レーダー追跡システムを用いたサーブ時のボール速度と回転数の関係,日本体育大学大学院,(2020年12月)

図5 図6