テニスラケットの科学(761)
:(備忘録)
:いま,ITF(国際テニス連盟)が考えていること(その1)
:テニスにおける技術と伝統の調和
:第1回テニスの科学技術に関する国際会議 (TST, Tennis Science & Technology) 2000年8月
国際テニス連盟 (ITF、 International Tennis Federation) 主催のテニスの科学技術に関する第1回国際会議 (TST、 Tennis Science & Technology) が2000年8月にロンドン郊外のローハンプトン (Roehampton) で開催されました。
全英(ウィンブルドン)テニス選手権予選が行われる町です。
70数名の講演者を含む250名の研究者やテニス協会関係者が15カ国以上から参加しました。いつでも好きな時にテニスができる講演会場の隣のテニスコート、ウィンブルドン前哨戦大会が開催されるテニスクラブでの会議参加者によるデビスカップ(国別対抗)テニス大会、ウィンブルドン大会No。1コートを目の前に見ながらの晩餐会などが企画され、楽しい会議です。
ITF の Coe 氏による基調講演は
「テニスにおける科学技術と伝統の調和」
というタイトルで、会議の大きなテーマでもありました。
用具、スポーツ科学、施設、ゲームの4つのセッションが、
元世界チャンピオンの名前にちなんだ
Agassi(アガシ)、
Becker(ベッカー)、
Connors(コナーズ)
の3会場で行われ、活発な討論が行われました。
話題の中心は、
世界各国のスポーツ・レジャーの現状を調査した研究と
新しく公認されたラージボールの影響についての研究
でした。
ラージボールは、
質量や反発係数に関する規則は変えずに、
従来のボールよりサイズ(直径)だけを約8%大きくしたものです。
室内コートや天然芝のような高速コートでは、従来のボールより直径を約8%大きくして球速を抑え、
逆にクレーコートのような球足の遅いコートでは、スピードが出るボールを使用し、さらに、
中間の速さのコートでは従来のボールを使用する
という試みです。
ラージ・ボールの導入は、男子のテニスはスピード化によりラリーが続かなくてつまらないという芝のコートなどでの状況に対して歯止めをかけ、プレーヤーにとっても観客にとってもテニスの魅力と楽しみを増そうという意図です。
ITF主導により
ラージボール導入の影響に関する一連の研究が世界の数カ所で行われ、これらの研究にはITFやUSTA(全米テニス協会)の助成があります。
図1
国際テニス連盟(ITF)主催 第1回テニスの科学技術に関する国際会議
ウィンブルドン・テニスコート訪問
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図ー1
図2
国際テニス連盟(ITF)主催 第1回テニスの科学技術に関する国際会議
イタリアのテニスラケット製造職人さんと息子と川副(会議晩餐会にて)
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図ー2
図3
国際テニス連盟(ITF)主催 第1回テニスの科学技術に関する国際会議
テニス研究者によるデビスカップトーナメント,共同研究者ミラノ工科大学 Casolo 教授と
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図ー3
● ラージボールの公認
ITF からの委託により、我々も、
プレーヤーの上肢に加わる衝撃振動におよぼすラージボールの影響
を実験および衝突解析により定量的に明らかにしました。
主な結果は、以下の通りです。
ラージボールは、
従来のノーマルボールに比べて、
インパクトでのボールとラケット(ストリング)の衝突力はわずかに小さく、
接触時間はやや長い
という結果になりました。
ラケット面のオフ・センター打撃でもセンター打撃でも、また、
ストリングス初張力が異なる場合も、
ラージボールとノーマルボールには大きな違いがないという実験結果を理論的にも裏付けることができました。
したがって、
ラリーにおけるラージボールは空気抵抗の増大により速度が低減し、その結果、
インパクト条件が同じであれば、
腕系の衝撃振動も低減する
ことになります。
ラージボールは、
テニスクラブ・レベルの試合から国別対抗のデビスカップやフェドカップの地域グループなどで試験的に使用され、
日本でも引退直後(世界ランキング8位での引退は驚き!その後復帰、現役)の伊達公子選手による朝日BS開局記念番組「i-SPORTS」 の初回放送で取り上げてもらったのですが、
重量は同一の規格で実際はむしろ少し軽いぐらいなのですが、
どうしてもラージボールは重いというイメージがもたれるようで、
ウィンブルドン大会のような大きいトーナメントではまだ使用されていません。
番組において伊達選手もうっかり「どうしてもボールが重いと—」と解説してしまいました!
(重くないのに! むしろわずかに軽いのに! 残念!)
卓球の場合は比較的スムーズにラージボールが導入されたのですが、
テニスの場合は、特に米国女子プロの反対が強かったらしくて、まだほとんど使われていないようです。
図4 ラージボール(タイプ2:芝コートなど速いコート用)とノーマルボール(タイプ2:従来型)
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図ー4
(参考記事)
・テニスのお話
: いま,ITF(国際テニス連盟)が考えていること(その1)
https://kawazoe-lab.com/talk/itf/