テニスラケットの科学(762)
:(備忘録)
:いま,ITF(国際テニス連盟)が考えていること(その1)
:テニスにおける技術と伝統の調和
:第2回テニスの科学技術に関する国際会議 (TST、 Tennis Science & Technology 2) 2003年7月

 第2回の会議は2003年7月末に開催されました。
 会場は第1回(2000年)と同じく、ロンドン郊外のローハンプトン (Roehampton) 、全英(ウィンブルドン)テニス選手権予選が行われる町です。
 研究者のほか、多くのスポーツ用具製造会社、テニスコーチ、コート建設会社、世界各国のテニス協会など、広範な分野の代表者の参加があり、テクノロジーの理解がテニスの将来にきわめて重要だというITF会長のコメントで始まり、約60件の発表がありました。
 主題は、前回と同じく、「テニスにおける科学技術と伝統の調和」ですが、ふたつのパネル・ディスカションがありました。
 ひとつは、
 ゲームへのラケットの影響に関連して、ラケット・テクノロジーの将来について、
 BBC放送キャスター、女子プロテニス協会副会長、英国デビスカップ選手、ITF技術委員、用具メーカー設計開発者をパネラーとして活発な議論がなされました。
 二つ目は、ラインコールの自動化です。
 おもに人間のライン・アンパイアとの違いに関して、自動ラインコール装置製造業社、プロテニス選手、テレビ関係者、テニス協会の代表者をパネラーとして広範な議論がなされました。
 ラケット・テクノロジーの将来についての議題は、
 マッケンロー氏ら、元トッププレイヤー数人が国際テニス連盟(ITF)に対して、最近のラケットの影響力を抑える対策を要求したということもあってのことかもしれません(図5、図6)。
 図5 ラケットのハイテク化を批判するマッケンローら

図ー5

 図6 ラケット首部に圧電素子を内蔵したインテリファイバー IS10 (打球面積115 in2、重量241 g(ストリング16gを含む)、 全長27.75 in)をマッケンローらがテニスの伝統を変えるとして批判
 ITF の技術研究所では、新開発の装置を用いてラケットやシューズ、ボール、コートなどの性能測定実験を精力的に進めていました。

図ー6

 図7は、ラケットのパワー測定装置です。
 上から落ちてきたボールをマシーンに取り付けたラケットで打撃して打球速度を測定していました。
 しかし、用具とパフォーマンスの関係はそう単純ではありません。
 ラケットが変わればスイングが変わります。
  スイングが変われば、ラケット性能も変わります。

図ー7

 最近のハイテクラケット(たとえば、図6)のパワーを木製ラケットのパワーと比較したのが、図8です。

図ー8


 図8のラケット面上の数字は、その打点でのインパクト直後の打球速度です。
 ただし、木製ラケット時代のストロークにおけるスイングを仮定しています。
 ラケット面センターで5%、ラケット面の極端な先端寄りで 14% 程度打球が速くなっています。
 しかし、最近はスイングのスタイルが大きく変わってきたので、実際のプレーでの違いはもっと大きいように見えます。
図8 パワー(打球速度)に関するスイートエリアの予測(肩関節トルク:Ns = 56.9 Nm、 インパクト直前のボール速度 VBO = 10 m/s)
図9、図10は、
 国際テニス連盟・性能試験用の標準として製作されたラケットITF(打球面積27in2:全長27 in、 680 mm、重量335 g、ストリング重量16 g)と 標準的な市販ラケット V-CON17(全長27.5 in:698.5mm、ストリング16gを含む重量 300g)です。

図ー9


図ー10


 図11は、打球速度(ラケットのパワー)の予測結果を比較したものです。

図ー11


 ラケット面上の数字は、その打点でのインパクト直後の打球速度です。
 従来型バランスの重めの性能試験用ラケット ITF と代表的な軽量ラケット V-CON17 には、ほとんど差がみられません。
 ラケット V-CON17 は、ラケット ITF に比べて、ヘッド速度は速くなりますが、反発係数はやや低く、反発力係数は低くなっています。
面安定性についても大きな違いは見られません。
図12は、ラケット先端側(打点A)でボールを打撃したときのラケットフレーム振動の初期加速度振幅の予測です。
図ー12

図ー12


この場合は、肩関節トルク:Ns = 56.9 Nm、 インパクト直前のボール速度 VBO = 10 m/s)を想定しています。
 ラケット ITF はラケット・ハンドルの振動が非常に小さく、
 ラケット V-CON17 は、ラケットITFに比べると、ハンドルの振動がかなり大きいことを示しています。

(参考記事)
・ Tennis Science and Technology 2, 2003 (ITF)
第2回テニスの科学技術に関する国際会議 (国際テニス連盟)報告
川副嘉彦、
スポーツ工学専門分科会会報 第7号 2005年
https://kawazoe-lab.com/research/tennis-science/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/07/20050110.pdf
(参考文献)
(1) ピエゾ・インテリ・ファイバーを採用したテニスラケットのパワーに関連する性能予測
川副 嘉彦、 武田 幸弘、 中川 慎理、日本機械学会論文集C編 79(799) 2013 p.726-737
https://kawazoe-lab.com/research/piezo/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/07/20130301.pdf
(2) 国際テニス連盟性能試験用ラケットITFの打球感に関連する性能予測と評価
川副 嘉彦、 武田 幸宏、 中川 慎理、ジョイント・シンポジウム : スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2009 2009-12 p.130~135
https://kawazoe-lab.com/res…/vibrations-of-handled-racket/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/07/20091202.pdf
(3) 国際テニス連盟性能試験用ラケットITFのボールの飛びに関連する性能予測と評価
川副 嘉彦、 武田 幸宏、 中川 慎理、ジョイント・シンポジウム : スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2009 2009-12 p.124~129
https://kawazoe-lab.com/research/itf-performance-test/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/07/20091201.pdf
(4) マッケンローのラケット・ハイテク化批判をどう理解すべきか
–テニスラケットのハイテク化とテニスのパフォーマンス
川副 嘉彦、テニスの科学 / 日本テニス学会 [編] 、 第13巻、 2005、 pp.18~21
https://kawazoe-lab.com/research/makkenro/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/07/20050030.pdf
(5) インテリ・ファイバー・テニスラケットの手に伝わる衝撃振動特性の予測と評価
川副 嘉彦、 吉成 啓子、 ジョイント・シンポジウム講演論文集 : スポーツ工学シンポジウム : シンポジウム:ヒューマン・ダイナミックス 2003 2003-11-07 p.165-170
https://kawazoe-lab.com/research/interifaibatenisuraketto/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/08/20031115.pdf
(6) ラージ・ボールを打撃したときのテニス・プレイヤ上肢系衝撃振動の予測
: フォアハンド・グランドストロークにおける手首部の加速度
川副 嘉彦、 友末 亮三、 村松 憲 他、ジョイント・シンポジウム : スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2001 2001-11-08 p.74~78
https://kawazoe-lab.com/research/ra-gibo-ruwodageki/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/08/20011110.pdf
(7) ラージ・ボールを打撃したときのテニスプレイヤ上肢系衝撃振動の測定
: フォアハンド・グランドストロークにおける手首部およびサービスにおける肘部の加速度
川副 嘉彦、 友末 亮三、 村松 憲、 吉成 啓子、 柳 等、ジョイント・シンポジウム講演論文集 : スポーツ工学シンポジウム : シンポジウム:ヒューマン・ダイナミックス 2001 2001-11-07 p.69-73
https://kawazoe-lab.com/…/measurement-of-upper-limb…/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/08/20011105.pdf
(8) テニスのインパクトにおける木製ラケットと超軽量・高剛性ラケットの性能予測
(ボールの飛びに関する違いのメカニズム)
川副嘉彦、日本機械学会・機械力学・計測制御講演論文集(A)、99-7(I)、 pp.223-226、 ( 1999)
https://kawazoe-lab.com/research/tenisunoinpakuto/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/08/19990720.pdf
(9) テニスのインパクトにおける木製ラケットと超軽量・高剛性ラケットの性能予測
(グリップおよび手首関節の衝撃振動の違いのメカニズム)
川副嘉彦、日本機械学会・機械力学・計測制御講演論文集(A)、99-7(I)、 pp.227-230 (1999)
https://kawazoe-lab.com/research/tenisunoinpakuto-2/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/08/19990715.pdf