テニスラケットの科学(826)
:研究者も誤解の多い「ストリング・テンションと打球速度」の関係
:最近(2023年)の「ソフトテニスラケットにおけるストリングテンションと打球速度」に関する学術論文*に「異見あり!」
:試行者(プレーヤー)特性のバラツキの大きさと打球速度(実測値)のバラツキ(川副研究室の見方・考え方)

*ソフトテニスラケットにおけるストリングテンションの違いが打球速度および打球コントロールに及ぼす影響、松江 拓, 前田 明,スポーツパフォーマンス研究, 2023年、15巻 pp. 186-192.
 古い(1993年)川副論文**が引用されていたこともあり、最近(2023年)の学術論文*の「ソフトテニスラケット」の張り上げテンションを変えた場合の打球速度の実験データとテンションとラケットの反発力、打球速度との関係についてのレビューを興味深く拝見させていただきました。
 その概要を紹介させていただき、多少、コメントさせていただきます。
 以下は、ソフトテニスに関する論文*の抜粋引用です。
 研究の背景と目的については以下のように書かれており、大変参考になりました。
“ 現在,競技用として販売されているソフトテニスラケットの多くは一般的に 25 から35 [lbs.] の範囲を推奨張力としてメーカー は設定しており,プレーヤーをはじめ,指導者やショップの店員もその推奨張力を目安として張り替える際のテンションを決定していると考えられる.
“ ソフトテニス指導教本 (2014)をはじめとする,ソフトテニスに関する書籍においても,ストリングテンションの違いが打球に及ぼす影響に関する項目は見られず,ストリングテンションを選択する際の情報源は指導者やプレイヤーの経験則に依存していることが考えられる.
 一方,近年一部のトップ選手が推奨張力 の下限である25 [lbs.]を大きく下回る10 [lbs.]でストリングを張り上げたラケットを実際の試合で使用していることが話題となった.
 それに続いて,発信力・影響力のある動画クリエイターが同様のラケットセッティングで実打する様子を公開したことで,一般選手にとっても低いストリングテンショ ンが選択肢の一つとして考慮されるようになった.
 ソフトテニスと類似する競技であるテニス(硬式テニス)においては,科学的な検証が行われており,ストリングテンションの差による打球速度や飛距離への直接的な影響は小さいと報告されている
(外山・桜井,2004;神和住,2004;川副,1993).
“ 以上のことから,テニスにおいてはストリングテンションの違いが打球パフォーマンスに及ぼす影響は小さく,その要因がインパクト時のボールの変形が小さいことからエネルギー損失が小さいためであることが推察できる.
 ソフトテニスはテニスと比較して,軟らかいゴム製のボールを使用することから,インパクト時にボールが大きく変形する性質がある.
 そのため,ストリングテンショ ンの違いが打球に大きな影響を及ぼす可能性があると考えられる.
 以上のことから本研究では,ソフトテニスラケットのストリングテンションの違いが打球速度および打球コントロールに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.
“,対象者は,高校生女子ソフトテニス選手13名 (年齢:15.8±0.7歳,身長:158.8±5.6cm,体重: 50.0 ± 4.3kg)とした(表1).
 実験を開始するに あたり,いずれの対象者にも本研究の目的,方法, 結果の秘匿および実験に伴う安全性などに関して 十分説明を行い—-
“ テニス用ポータブルネット(YONEX社製)を設置し,仮想のテニスコートとターゲットエリア(図1) を設定して,実打によるパフォーマンステストを行った.
 テストは,3条件のストリングテンショ ン(35,25,15[lbs.],それぞれHigh,Middle, Low 条件とした)の同一ラケット(GEOBREAK 70VS,YONEX社製)を用いて,ベースライン付近からターゲットエリアにフォアハンド(サイド ストローク)で,各条件3球ずつ打球するものとした.
 3条件の実施順序は対象者ごとにランダムで決定した.
“ 球出しは,対象者の利き腕側前方3m付近から,同一の検者が手投げにより行った.”
“ 対象者が明らかな失敗試技と判定した場合,フ レームショット,打球速度が計測できなかった場合は失敗試技と判定し,打ち直しを行なった.
” (1)打球速度
インパクト位置から約2m後方にスピードガン (SSK社製)を設置し,打球速度を計測した.なお, 打球速度をフィードバックすることが以降の試技へ影響を及ぼす可能性を考慮し,試技の合間に打球速度を対象者へフィードバックしないものとした.
 打球速度の実験結果については以下のように書かれています。
“ 図3は,全対象者の最高打球速度の平均値を示している.
 なお,最高打球速度はターゲットエリアに着弾した試技から選出した.
 一元配置分散分析の結果,ストリング条件間での有意な差は見られなかった(F(2,36)=2.434,p=0.102).
 考察では、ストリングテンションの違いと打球速度について、
“ Low条件における打球速度が他条件と比較して高い傾向は見られたが,有意な差は見られなかった.”と書かれている一方で、
“ 今後 実験の規模を大きくし,サンプルサイズを増やすことで異なる結果を示す可能性はあると考えられる.”と書かれていますが、「異見あり!」です。
 (画像2と画像3で、川副研究室のデータの見方・考え方を紹介させていただきます。)
 また、結論として、
1.ストリングテンションの違いは打球速度に影響を及ぼす可能性は低いことが示唆されたが,選手のタイプによっては低いストリングテンションのラケットを使用することで打球速度の向上が期待できる.
2.ストリングテンションが高いと打球が飛びにくくなり,想定より打球が短くなる場面が増加する可能性がある.
3.ストリングテンションが低くなると打球がよく飛び,想定より打球が長くなる場面が増加する可能性がある.
“と書かれていますが、実験データの客観的な分析結果からは、「可能性」という表現は「先入観」あるいは「主観」に近く、川副研究室のデータの見方・考え方からは「異見あり!」です。

画像ー1

 画像2は、引用論文の図3(テンションと最高打球速度の平均値)にバラツキの大きさを川副研究室により加筆・編集させていただいたものですが、バラツキが大きいことを示しています。

画像ー2

 画像3は、引用論文の表1(試打:高校生女子ソフトテニス選手13名、基本情報例:身長:158.8±5.6cm)を川副研究室によりグラフ化・編集させていただいたもので、試行者の身長のバラツキの大きさを示しています。

画像ー3

 13名の試行者は、身長のほかに、体重、年齢、技術レベル、ストロークの特長なども異なるので、平均打球速度ではなく最高速度で評価していることも重なって、打球速度の平均値のバラツキも大きく、残念ながら、貴重な実験が十分生かされない結果になっているようです。
 プレーヤーによるラケットの反発性能実験は、ストリング面の中心・先端側・根元側の打点の違いによってラケットの反発力・打球速度も大きく変わるなど、プレーヤーの特性によっても結果が異なるので、データ数を増やすことよりも、安定したスイングのできる試行者を確保することが優先されると思います。
 まず、ラケットヘッドを固定した衝突実験をやるのがよいのではないでしょうか。
 ボールの変形の大きいソフトテニスのインパクトでも、打球速度に及ぼすテンションの影響はほとんどないようですね。
 変形の大きいボールのつぶれバネ定数は、変形の増大とともに、気体圧の硬化バネ定数(次第に硬くなる)とストリング面の硬化バネ定数(次第にたわみにくくなる)により、インパクトにおけるテンションは、ソフトテニスでも、張り上げテンションよりはるかに高く、硬式テニスと似たような現象が起こっているのかもしれません!
 誤解が多いのですが、ボールのつぶれ量、ストリング面のたわみ量が大きいほど、ボールとストリング面の復元バネ定数は大きくなり、したがって、急速に復元し、ボールとストリング面の接触時間は、変形が大きいほど、短くなります。
(強い非線形現象)
 今後の研究が楽しみです!
 文献として、以下の論文などが挙げられています。
・外山涼子,桜井伸二(2004) テニスラケットにおけるストリングス張力およびボール衝突位置が反発係数に与える影響.中京大学体育学論叢, 45(2): 61-69
・神和住純(2004) テニスにおけるストリングテ ンションとサービス速度の考察.法政大学体育・ スポーツ研究センター紀要,22:19-26
・川副嘉彦(1993) ボール・ストリングス系の非線形性とフレーム振動モードを考慮したテニスラケットの反発係数分布の解析.日本機械学会論文集(C編), 59(562): 76-83.
(参考記事)
・テニスラケットの科学(814):研究者も誤解しやすい「ストリング・テンション」
・テニスラケットの科学(660)
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