事例3:テニスボールの毛羽の役割
プロ・テニスプレーヤーがトップスピンとアンダースピンで打撃したときのテニスボールとフェルト(毛羽)なし(滑面)ボールのスピン性能を超高速ビデオカメラにより測定・解析し,フェルト(毛羽)のスピン量におよぼす影響を明らかにし,流れの可視化によりボール・コントロールにおよぼすフェルト(毛羽)の役割を考察し,テニスボールの毛羽とスピンとボール・コントロールの謎を始めて明らかにしました.
図1 プロのトップスピン打撃におけるテニスボールとフェルト(毛羽)なしボールのスピン性能測定値(NHKとの共同実験) |
フェルト(毛羽)なしボールは,スピン量(図a)が顕著に低減し(平均 50 %低減),接触時間(図c)も短くなっています(平均 23 %短い).
スピン量が大きく減少するために,インパクト直後の打球速度(図b)は速く(平均 42 %速い),したがって,フェルト(毛羽)なしボールを強打すると,コート内に収まらないで,コート外に飛び出しやすいことになります.
トップスピンにおけるボール周りの流れ | |
(火花追跡法による回転飛翔の可視化) | |
川副嘉彦・武田幸宏・中川慎理・青木克己、日本機械学会スポーツ工学シンポジウム2009 | |
(a) Smooth surface ball without felt |
(b) Tennis ball |
図2 (a) フェルト(毛羽)なしボール(滑面ボール)と (b) テニスボールのトップスピン:打球速度 30m/s (時速 108 km/h) 左向き,トップスピン量 3500 rpm:矢印方向)に相当するボール周りの流れの測定 |
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Spin Behavior of tennis ball and smooth surface ball without felt by flow visualization. 30 m/s (108 km/h, 3500rpm (Top spin) |
テニスボールにトップスピンがかかると,ボールのフェルト(毛羽)により揚力は下向きに働き,強打してもボールをコート内の狙ったところに落としやすくなるが,フェルト(毛羽)なしボールの場合は,揚力は上向きに働き,ボールが浮いてコントロールが難しくなることを示唆しています.