テニスラケットの科学(563)
:コーポリ・ガット(ポリエステル系ストリング)
:実際にはどのような仕組みで機能しているのか(解説記事紹介)⑧
:コーポリ・ガットとの関係(その1)

● コーポリ・ガットとの関係(その1)
・ では,潤滑剤を塗布したガットに関するこの考察はコーポリ・ガットとどのように関係してくるのか.
 滑りやすく剛性も高いコーポリ・ガットは,潤滑剤を塗布したガットと非常によく似た挙動を示す,というのがその答えである.
 これらのガットは,ボールと一緒にスライドした後,元の位置に素早く跳ね返ることで強いスピンを生み出すトルクを与える.
・ コーポリ・ガットが強いスピンを生み出すのは,ガットが動かないからではなく,より自由に両方向に動くからである.
・ ITFも,独自の実験を行い同じ結論に達した.
 しかし,これらの結果は注目されず,ほとんどの選手やコーチは知らない.
 川副論文と同様,ITFの論文は技術者向けの雑誌やITFの刊行物でのみ公表されており,一般のテニス関係者や愛好者,マスコミの関心を引くには至らなかった.
・ この状況は,2010年4月に2人の著名なテニス関連の科学者,ロッド・クロスとクロフォード・リンゼイが周到に管理された実験の結果を発表したことで変わった.
 2人の研究では,平均的なコーポリ・ガットは平均的なナイロンガットに比べて 25 % 増,天然ガットに比べて 8 % 増のスピンを生み出すことが示された.
・ クロスとリンゼイは,ほんの数種類のガットを試験したに過ぎない.
 しかしITFのスチュアート・ミラーが私に語ったところによると,より広範なITFの実験結果は2人の研究結果とよく似たものであったということだ.
 事実,ITFは現在市場で販売されるすべてのガットについてスピンの潜在能力を調べようと努めているが,それらのデータは一般には公開されていない.
・ 今でも多くのプロ選手が自ら費用を負担してでも手に入れようとするガットで,クロスとリンゼイが実験した中でも最も優れた成績を示した素晴らしいコーポリ・ガットであるルキシロンALU Power Roughでは,平均的なナイロンガットに比べて35 % 増のスピンが得られた.
 ミラーによると,ITFが行った実験で最も優れた成績を示したガットでは,ALUよりもさらに約5 % 強いスピンが得られるということだ.
 これらの数字を足し合わせると,彼らが実験した中で一番成績が良かったコーポリ・ガットは,平均的なナイロンガットよりも約42 % 増のスピンが得られることがわかる.
・ 2011年の初め,クロフォード・リンゼイは滑りやすいガットの理論に関して多くの証拠を示す一連の論文を発表した.
 「ちょっと考えてみれば(これまで科学者が誰も思いつかなかったのが不思議なくらいだが),ガットの摩擦を小さくすれば,ガットは動くことが分かる,
 ガットは弾性エネルギーを蓄え,再放出するんだ」
・ 「ガット(縦糸)が横方向に動けるようにし,蓄えた弾性エネルギーを再放出するようにすれば,より強いスピンが得られる.
 これは非常に理にかなっている.」とリンゼイは付け加えた.
・ リンゼイは,ずれたガットが跳ね返るタイミングが重要だと考えており,彼の最近の研究では,このメカニズムを最適化するガットの特性が明らかにされつつある.
 ITFは,コーポリ・ガットの剛性が最も重要な要素であるとしており,それはまたガットのスライドし易さにも関係する.
・ 横糸の剛性が高ければ,横糸はメインのガット(縦糸)がその上を滑る高張力レールのような役割を果たすことができる.
 コーポリ・ガットは,一般に剛性がナイロンガットの約1.4倍、天然ガットの約2.8倍であるため,これは理にかなっている.
図10

図―10


図11

図―11


図12

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(続く)
(参考文献)
・(解説記事) コーポリ・ガット(実際にはどのような仕組みで機能しているのか)
ジョシュア・スペックマン  (訳:川副嘉彦)
埼玉工業大学工学部紀要 / 埼玉工業大学図書・紀要委員会(編) 第22号 2011年 pp. 37-45.