テニスラケットの科学(204):スピンとストリング(2) :ストリング面は衝突エネルギーの完璧な復元装置

● 鉄球をストリング面に衝突させると!(実験) 
 変形しない硬い鉄球をストリング面に衝突させると、ストリングの種類、テンションにかかわらず、ストリングに吸収される運動エネルギーの量はすべてほぼ同じであり、どのストリングも吸収した運動エネルギーの約95%を再放出します。
 すなわち、どのストリングの場合も、鉄球の跳ね返り(反発)速度は等しい値を示し(*1、*2)、入射速度の97%以上(反発係数では0.97以上に相当)の速度で跳ね返ることになります。
 ストリングがパワーを出すという表現がカタログなどに見られますが、ストリングは、パワーを出すのではなく、衝突において5%のエネルギをロスするだけで復元するということです。
 この5%という損失は、インパクトにおけるストリング同士の摩擦やグロメットの部分の摩擦などが考えられますが、ボールとラケットのインパクトにおけるトータル・エネルギーの0.7%にすぎません(*2)。
 したがって、ストリングの素材やテンションがどうであろうと、インパクトにおけるストリングのエネルギ・ロスは無視できるくらい小さい(ストリング面は衝突エネルギーを吸収し、吸収したエネルギーとほぼ同じだけのエネルギーを復元する)ということになります。
 このことは、ストリングのエネルギー復元(反発性能)に関しては、改良の余地がほとんどないことを意味しています(*2)。
(参考文献)
*1:Rod Cross and Crawford Lindsey, “ Technical Tennis”, Racquet Tech publishing (USRSA: United States Racquet Stringers Association), (2005), p.75.
*2:Lindsey, C., “ New Technologies and Racquet Power”, Coaching & Sport Science Review, 45 , ITF (International Tennis Federation), (2008), pp.13-14.