テニスラケットの科学(236):スピンとストリング(34) : ストリング表面とスピンの関係 :トップスピン打撃におけるノッチを潤滑したナイロンストリングとスナップバック現象

 図1は、ナイロンストリングを張ってから一日3時間、一週間ほど使用してできたラケット・ストリング面のノッチを潤滑したラケットでトップスピン打撃をしたときの、
(a)インパクト直前および
(b)インパクトでのラケットとボールの関係、
(c)スナップバック現象、
(d)インパクト直後のラケットとボールの関係を示した写真です。
 この場合のボールとストリングの接触時間は1000分の4.1秒です。
 図2は、その実験結果をまとめたグラフです。
 ストリングの縦糸と横糸の交差点にノッチ(溝)ができた使用後のラケット(Used)の場合、
新品のストリング(New)の場合と比べるとスピン量は平均40%低減しています。
 ところが、縦糸と横糸の交差点に潤滑剤を塗ったラケット(Lubricated Used)は、
使用後のラケット(Used)と比べスピン量が平均30%回復し、
接触時間は平均16%長く、
打球速度の低減は平均 6%という実験結果になっています。
 打球速度が低減しているのは、スピン量が増大したことによって、インパクトにおけるエネルギーのうちスピンのエネルギーの割合が増加しているためです。
 スピン量が増すと接触時間が長くなり、打球速度はわずかに低減します。
 図3は、トップスピン打撃によるインパクトにおいて、
テニスボールがストリング面に接触しているときのボールとストリングの挙動を示しています。
 通常のラケットの場合(a) に比べて、
潤滑剤を塗ったラケットの場合(b) のほうが
縦に張ったストリングの横ずれが大きいことを示しています。
(参考文献)
・Yoshihiko KAWAZOE and Kenji OKIMOTO,” Super High Speed Video Analysis of Tennis Top Spin and Its Performance Improvement by String Lubrication”, The Impact of Technology on Sport, ASTA Publishing, (2005), pp.379-385.
・Joshua M. Speckman,The New Physics of Tennis, Joshua M. Speckman 2011-01-04 /String Theory
・KAWAZOE Yoshihiko, OKIMOTO Kenji, OKIMOTO Keiko,
Mechanism of Tennis Racket Spin Performance:Ultra-High-Speed Video Analysis of Spin Performance Improvement by Lubrication of String Intersections,Journal of System Design and Dynamics Vol.6, No.2, 2012, pp.200-212.
・KAWAZOE Yoshihiko,TAKEDA Yukihiro,NAKAGAWA Masamichi,
Effect of Notched Strings on Tennis Racket Spin Performance:Ultrahigh-Speed Video Analysis of Spin Rate, Contact Time, and Post-Impact Ball Velocity,
Journal of System Design and Dynamics Vol.6, No.2, 2012, pp.213-226.

図1

図2

図3