テニスラケットの科学(32) プロのサーブ
動画は、鈴木貴男選手の見事なサーブです!
バイオメカニクスの専門家ではないので、サーブにおける身体操作に関するコメントはできませんが、「うねって力を伝える『鞭の原理』の有効性はよく知られていて、鞭の尖端は音速を超えるほどの威力を発するが、鞭がしなって順々に力を伝えるまでに距離と時間がかかるのが短所」と言われています。
サーブは相手に反応する必要がなく、自分の間合いで行うことができるので、「鞭の原理」は高速サーブを生むには有効でしょうね。
サーブ速度は、ラケット・ヘッド(打点)速度と打点における反発力係数 e のみで決まります。
言い換えると、ラケットが同じなら、ストリング面の打撃位置の速度のみで決まります。
誤解されやすいのですが、サーブは、ラケットの力によって打たれるのではなく、「ラケットの運動量:(ストリング面上の打撃位置に換算したプレーヤーとラケットの質量)x(打撃位置の速度)」が、質量をもつボールに衝突することによって発生する「力積:(力)x(接触している間に力が作用する時間)」によって、「ボールの運動量:(ボールの質量)x(打球速度)」に変換されます。
改めて説明させていただくつもりですが、テニスラケットや野球のバットの重量配分は本当にうまくできていて、ストリング面で打てば、ラケットは手で持ったグリップ位置の近くを支点にして回転するので、手の位置に大きな重量が付加されてもラケットの反発性能にはあまり影響しないことになるのです。
もちろん、一般に「斜め衝突」ですから、直線速度成分と回転速度成分の割合によって、ボールの直線的な打球速度とスピン回転速度に分かれます。
回転のない速いだけのサーブは、サービス・エリア内に入らないところが、サーブの悩ましいところですね。
(蛇足ですが)
『鞭の原理』の場合は、強い踏ん張りが必要なために、身体を痛めることが多いという指摘もあるようです。
1-動画:鈴木貴男選手のサーブ1(時速205キロ)-NHK
2-動画:鈴木貴男選手のサーブ2(スローモーション)-NHK
* “テニスを科学する アインシュタインの眼” NHK BS hi,2008年2月26日,22:00~22:44