テニスラケットの科学(322) :スピンとストリング(66) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :再度テンションの大誤解を解く(その1)(ストリングの反発力は、張り上がりテンションによるのではなく、インパクトでのテンションによる)

● 「ストリングを緩く張ると反発力がある!」とプレーヤーの99%(?)が今もなお信じているようです!
 テニスラケットのストリングに関する通説・俗説は無数にあり、ストリングの選択は今でも試行錯誤で行われています。
 1000分の3~4秒間というテニスのインパクトにおけるボールとストリングの接触時間における挙動をプレーヤーもストリンガーも感知できないこと、定量的なボール打撃実験が難しいことなどの理由により,テニス専門雑誌などでは,ストリングの性能が,打撃用具としての評価というより,ボールがストリングを離れた後の弦楽器としての感覚的な評価(音の高さ、音色)や推測がほとんどのようです。
 最も典型的なのがストリングのテンションです。
 「ストリングを緩く張ると伸びが大きいから反発が良い」という説明が一番多いようですが、伸びが大きくてもテンション(復原力の源)が低ければ、反発力は高いとは言えないので、この説明は間違っています。
● テニスラケットの科学(206)でも書かせていただきましたが、著名なドン・レアリーの著書にもあるように、少なくとも1980年ごろまでは、「ガットがゆるければゆるいほど、パワーは落ちる」というのが常識でした。
 「テンション(張力)がボールを飛ばす(跳ね返す)」という意味では物理的に正しいのですが、間違いは、インパクトでも張った時のテンションを想定していることです。
 張り上がり60ポンドや70ポンドのテンションでもボールを跳ね返すことには十分ではありません。
 もう一つの間違いは、接触時間が長くなるからパワーが落ちるという記述がありますが、矛盾しています。 
 一般に接触時間が長くなればテンション(あるいは復原力)が小さくなりますが、パワーは、インパクトにおけるテンションと接触時間の積(積分)で決まります。
 その後、1987年にハワード・ブロディの著書が出ると、逆に、
「ストリングのテンションを強くすると、反発力は小さくなる。」
「ストリングのテンションを弱くすると、反発力は大きくなる。」
というのが常識になりました。
 ブロディは、物理学的には明快であるというだけで、理由は書いてありません。
 これが現在も主流として続いているようですが、間違った理由が散乱しているのは、ブロディが明快というだけで理由を示していないからかもしれません。
 ただし、ブロディは、2002年発行のロッド・クロスとクロフォード・リンゼイとの共著では、「ストリングのテンションを60ポンドから50ポンドに10ポンドさげたとき、サーブのスピードは0.7%しか増加しない。」と書いているが、さらに最近の論文では、「(張り上がり)テンションは反発力に影響しない」という実験結果を示しています。
 サーブスピードの0.7%程度の差はラケットの衝突実験においてはばらつきの範囲です。
 要するに過去の実験も、多少の差があったとしても、誤差の範囲とみなすのが一般的でしょう。
 測定精度が改善された最近の実験と理論に基づけば、「(張り上がり)テンションはほとんど反発力に影響しない」と言えるでしょう!
● (張り上がり)テンションは初期設定!
 インパクトにおけるテンションの大きさが反発力の源になります。
 張り上がりテンションが異なっても、インパクトでのテンションは、ほとんど違いがありません。
● インパクトにおけるテンションが反発力になる!
● したがって、インパクトにおけるテンションが高いほど、反発力は高い!
● では、なぜ、(張り上がり)テンションが異なっても、ストリングの反発力に違いがないのか!