テニスラケットの科学(331) :テニスラケットの性能設計➃: テニスラケットの力学 :ストリング面の打点位置に換算した質量(重量)とは何か(4) 軽量型と従来型ラケットのスペックと物理特性

● フレーム重量が 200グラムに近いラケットまで現れるほど軽量化も進みましたが、一方、サンプラスはフレームに錘(おもり)を貼って 400グラムに近い重いラケットを使っていたという噂もありました。
 従来型重量バランスを好むプレイヤーは、錘をフレームに貼って自分の好きな重量バランスに変更して使っているようです。
 ラケット性能には、総重量と重量配分(バランス)が最も影響するからです。
● 軽量型と従来型ラケットのスペック(仕様)上の違い
・ 表は、軽量型ラケット(フレーム重量275g、ストリングを含む総重量290g)と従来重量バランス型ラケット (フレーム重量354g、ストリングを含む総重量370g) の仕様と物理特性です。
 ラケット性能についての理解を容易にするために、ここで、この表にでてくる用語について少し説明させていただきます。
・ 全長/重量
 表の例では、
 両ラケットとも「全長」は27インチ(ノーマル)です。
 軽量型ラケットの「フレーム重量」は274g、「ストリングスを含めた重量」は290g、従来重量バランス型はフレーム重量354g、ストリングを含めた重量は370gです。
・ バランス
  「バランス」は、ラケット重心のグリップ端からの距離です。
 この「バランス位置と打点との距離」は、ラケットの「慣性モーメント」とともに、「ラケットの反発性」に大きく影響します。
 通常バランス位置は、ラケット面の中心よりグリップ側にあるので、「重心周りの慣性モーメント」が同じなら、バランスの値が大きいほどラケットの「反発性」は良いことになります。
これらの関係については後ほど詳しく説明します。
・ 重心まわりの慣性モーメント
 「重心まわりの慣性モーメント」は、重心(=バランス位置)まわりにラケットを回転させるときの、慣性の大きさ(回転させにくさ、回転の加速しにくさ)です。
 バランス(重心)位置から離れたトップやグリップ端に重量が多く配分されているほど、「重心まわりの慣性モーメント」は大きくなります。
 軽量型ラケットは、表に示すように、従来重量バランス型に比べて、「重心まわりの慣性モーメント」がかなり小さいため、バランス位置を打点に近づけないと(バランスの値を大きくしないと)、ラケットの反発性は悪くなります。
・ グリップまわりの慣性モーメント
 「グリップまわりの慣性モーメント」は、ラケットを振るとき(グリップ周りにラケットを回転させるとき)の慣性の大きさ、すなわち、振りにくさ、あるいは回転の加速しにくさ)です。
 これを「スイング・ウエイト」と称しているメーカーもあります。
 一般には、この「グリップまわりの慣性モーメント」が大きいラケットは、操作性が悪いとされますが、実際のプレイにおいてプレイヤーの感じる操作性は、もっと複雑なようです。
 プレイヤーによっては「グリップまわりの慣性モーメントが小さいほど操作性が良い」とは、必ずしも言えないようです。体力やプレイスタイルに関係する部分もありそうです。
・ 長手軸まわりの慣性モーメント
  「ラケット面長手軸まわりの慣性モーメント」は、プレイ中にラケットを構えた状態で手の中でクルクルっと回すときの、慣性の大きさ、回転の加速しにくさです。(長手軸とはラケットの縦方向の中心軸のこと)
 この値が大きいほど、サイドフレーム側に外れたオフセンター打撃で面がブレにくくなり、「面の安定性」や「コントロール性」が良くなります。
 フレーム両サイドに重りをつけるチューンナップは、この長手軸まわりの慣性モーメントを大きくするためのものです。
 表からわかるように、「ラケット面長手軸まわりの慣性モーメント」が小さいのが、軽量ラケットの弱点です。
・ フレーム基本振動数
 「フレーム基本振動数」は、ラケット・フレームの曲げ振動(硬さ)に関係します。
 重量が重くて振動数が高いほど、フレーム剛性が高いということになります。
 ウッドのラケットに比べると、両ラケットの振動数は約2倍です。
 とくに、PROTO-02はもっとも剛性の高い典型的な厚ラケで、剛性はウッドの4倍近くなります。
(参考文献)
川副嘉彦、
ラケットの科学:従来バランス型と超軽量型の性能比較①,
テニスジャーナル,第20巻210号,pp.54-58.2001年

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