テニスラケットの科学(457)
研究の思い出
:機械系学生の情報誌・メカライフ特集
:「スポーツ工学」(1996年)
:テニスのインパクトの謎を解く (概要:その5)

(図5の説明補足)
インパクトにおけるボールとラケットヘッドの衝突速度が、秒速20m、および30mの場合の、ボールとラケット面に作用する衝突力の時間的変化を示しています。
・衝突速度が毎秒20mの場合、接触してから(時間ゼロ)離れるまでの時間が 3.8/1000 秒(接触時間、インパクト・タイム)であることを示しています。ボールとラケット面が相互に作用する力がゼロになったところでボールはラケット面を離れます。
・衝突速度が毎秒30mの場合、接触してから(時間ゼロ)離れるまでの時間が 2.8/1000 秒(接触時間、インパクト・タイム)であることを示しています。
相互に作用する力がゼロになったところでボールはラケット面を離れます。
衝突力の変化は解析しやすいように半波正弦波(サイン波の半分)で近似しています。
・スピンがかかる場合は、斜め衝突ですから、ボールの飛ぶ方向の力成分が打球速度に、接線方向成分がスピン量に関係します。
・インパクトの時に強く握りしめろという指導をされるコーチがありますが、インパクトの衝突力と手の握りの強さとは無関係です。
(図6の説明補足)
図6は、ラケット全長、約680mm に対して、4点(ボールとの接触位置)で示す打球位置で衝突したときの打球面の振動の大きさを示しています。打球面の中心付近(スイート・エリア)でボールと衝突した場合は、フレームの振動は非常に小さいですが、根元側や先端側(オフ・センター)で衝突すると、振動の初期振幅(振れ幅)の最大値が6ミリ程度でることを示しています。
・また、オフセンター打撃でフレームが大きく振動しても、打球面中心付近およびハンドルの握りの位置(グリップ)は、振動の節に相当するために、振動しないことを示しています。
これらの振動は、インパクト後に残留振動として残りますが、手で握っている場合は、手に吸収されて、急速に減衰します。
・このフレーム初期振動振幅が大きいことは、エネルギ損失が大きいことを示しているので、オフセンターで打撃すると反発係数(弾きの良さ)が低下することになります。
・反発係数とフレームの換算重量(打点に換算した重量)が大きいほど、反発力性能が良いことになります。

●(参考文献)
(1) 川副嘉彦、手で支持したテニスラケットの実験的同定とボールとの衝突における振動振幅の予測、日本機械学会論文集、 C編 第61巻584号、 1995年、 pp.1300-1307.
(2) Yoshihiko KAWAZOE, Effects of String Pre-tension on Impact between Ball and Racket in Tennis,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.43(1994), pp.223-232.
(3) 川副嘉彦、ラケットはどう選ぶべきか,ラケットの科学II-⑧、月刊テニスジャーナル,13巻4号(1994.4), pp.101-106.