テニスラケットの科学(515)
(備忘録)2020年12月15日投稿
テンションとプレイのマッチング 1995年版(7): Part5 
テンションの秘密を科学で探る
実験結果と実際のスウィングの印象の間で、 ギャップはなぜ起こるのか ④
(3) ラケットヘッドを固定し、純粋にストリングだけの影響を調べてみると

(備忘録)

“ 以上の実験では、ラケットの違いが影響してテンションと反発の関係を複雑にしている。
 そこで、フレームの影響がないように、ラケットヘッドを固定した状態でボールがストリングにぶつかるときの反発を見てみよう。
 図1は、ラケットフレームを完全に固定して、ストリング面にボールをぶつけたときの反発を実験により調べたものである(ヤマハスポーツ事業部資料*)。
 ナイロン・ストリングを30ポンドと、60ポンドで張った場合の比較を示している。
 横軸はボールの衝突前の速度(入射速度)、縦軸は跳ね返り速度と入射速度の比、いわゆる反発係数である。
 この実験では、純粋にボールとストリングスだけの特性による反発特性を示していると理解していただきたい。
 ストリングスを30ポンドで張ったときと60ポンドで張ったときの違いを見ると、衝突速度が15m/s以下と20m/s以上では30ポンドの方が60ポンドよりわずかに反発が良く、衝突速度が15m/sから20m/sの間では逆に60ポンドの方がわずかに反発が良い。
 同様の実験で、テンションの低い方が反発が良く、衝突速度が増すにつれてテンションの違いによる反発の差はなくなるという他の研究者の実験結果(カフィ、サイエンス&ラケット1994年)もある。
 しかし、テンションの違いによる反発の差は大きくないと考えていいだろう。(補足:図1の縦軸の目盛は一部を拡大していることにも注目してください)
 ボールが硬い壁にぶつかるときは、衝突速度が速いほどボールの変形が大きくなり、反発が悪くなることはよく知られて事実である。 
 これに対してストリングスに衝突するときは、衝突速度が増しても反発はほとんど低下しない。
 この理由は、ここでは詳しく説明できないが、衝突前に持っているボールの運動エネルギに対して、ボールの変形によるエネルギ・ロスの割合がほとんど変わらないことによる。
 これが、ストリングスの重要な機能でもある。

*補足:木製ラケットから複合材ラケットに変わり始めた頃、試行錯誤でラケット研究にのめり込み始めました。このとき、ヤマハ(株)スポーツ事業部研究室との幸運な出会いは、とても貴重でした。年に1,2度、浜松での研究会で情報交換し、熱い議論を交わしたことをなつかしく思い出します。
 以下は、研究会において、当時のスポーツ研究室室長・T博士からいただいたアドバイスです。
 『一般論としては,①ラケット外形寸法,②質量分布,③フレームの剛性分布,④ガットの面圧分布(メッシュの粗さとガットテンション),⑤ボールの変位一力特性(非線形),などの物理特性に対して,ボールがある速度とある角度でラケットと衝突した瞬間からリリースする迄の間にラケットがどのように挙動するか,またボールの速度とスピンがどうなるかがクリアーになれば,これは理想であり期待されるところでもあるが,何と云つても挙動にかかわるFactorが多く,莫大な実験と歳月を要することになることが予想される.
 当社の力で色々進めてきた苦い経験から,例えば以下のような絞り込んだテーマにした方が,研究としての成果が出易いのではないかと思います。
課題1. 飛びをよくするにはどのような物理特性を最適化すればよいか?
条件:
ボールガット系の非線形性を考慮の上に考える.
物理特性は,質量分布,剛性分布,ガット面圧分布等で振動モード絡みでスイートエリア(反発係数分布),打撃の中心,スイートスポットの位置がどう定まるか.
課題2. 打球惑と物理特性の関係について
 人間系を含めると,振動が大きくクローズアップしてくる.
課題3. ボールのコントロール性能と物理特性の関係について
 スピンが研究の課題としてクローズアップしてくる.
等が考えられます。』
(続く)
(参考資料)
テンションとプレイのマッチング:Part5
テンションの秘密を科学で探る
実験結果と実際のスウィングの印象の間で,ギャップはなぜ 起こるのか
川副嘉彦,月刊テニスジャーナル 1995年10月号,pp.55-60.