テニスラケットの科学(519)
(備忘録)2020年12月17日投稿
テンションとプレイのマッチング 1995年版(10): Part5  テンションの秘密を科学で探る
実験結果と実際のスウィングの印象の間で、 ギャップはなぜ 起こるのか ⑦  
(6) 実際のスウィングでは、ストリング以外の要素が加わって、反発に差が出てくる

(備忘録)

“ ここで、ヘッドを固定した場合、あるいは手でグリップを支えた場合と実際のスウィングの違いを考えておこう。
 インパクトをわかりやすく言うと、ボールのバネとストリングスのバネを間に挟んで、ボールの質量とラケット・フレームとが衝突する現象と考えることができる。
 今、何にも固定されず、静止しただけのラケットにボールが衝突する場合を考えてみよう。
 ボールがラケットの重心に衝突するのであれば、ラケットは回転しないで元の姿勢のまま弾き飛ばされる(並進運動という)。
 そしてラケット全体の重量がボールの跳ね返りに関係するから、ボールはよく跳ね返る。
 しかしボールが重心から離れた先端に衝突する場合(オフセンター打撃)は、ラケットは回転しながら弾き飛ばされる(回転運動と並進運動)。
 そのときラケットが回転してしまうためにラケットの重量が衝突に有効に働かないので、ボールはあまり跳ね返らなくなる。
 極端に言うと、軽すぎるラケットの先端に衝突した場合は、ボールは跳ね返らないでラケットが回転してしまうのである。
 また、インパクトでは、固定されていないフレームは振動するので、ボールの持っていた運動エネルギー の一部が振動のエネルギーに奪われて、反発がさらに低下する。
 またオフセンターほど反発が低下するのは、前述したとおりだ。
 フレームではなく、グリップを固定していても同じである。
 インパクトでは瞬間的に大きな力が作用するので、フレームは固定しないときと同じ程度に変形しながら、ボールに押される。
 したがって、反発は悪くなる。
 このとき、テンションが高ければ、高いほど、その振動の幅は大きくなり、それが反発エネルギーのロスを招く。
 次にグリップではなく、ラケットヘッドを壁に固定した場合は、フレームが動かないからボールはストリングスを介してよく跳ね返る。
 フレームもほとんど振動しない。
 純粋にストリングの影響だけを調べることができる理由だ。

(続く)
(参考資料)
テンションとプレイのマッチング:Part5
テンションの秘密を科学で探る
実験結果と実際のスウィングの印象の間で,ギャップはなぜ 起こるのか
川副嘉彦,月刊テニスジャーナル 1995年10月号,pp.55-60.