テニスラケットの科学(583)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる➃
:打球速度とスピンの生成原理(例)
:ストリング面のスイート・スポット(反発力係数0.4程度)でトップスピン打撃した場合(ストリング面の先端側での打撃との比較)

● (図1の説明):テニスラケットの科学(582)の復習です。

図―1


・ 図1は、高速度カメラで実打を撮影した映像の連続写真をフェデラー選手をモデルとして、フォアハンド・トップスピンのインパクト後の打球速度、方向、スピン量(回転角速度)がどのように発現するかを示したものです。
・ インパクト直前と直後のボールの挙動の変化には、ボール・ラケット間の反発特性や摩擦特性など、複雑な要素が関係するので想像するのが難しいのですが、 これは実際にボールを打ったときの高速度カメラで撮影した映像の連続写真に基づいています。
 (注釈)
 ベクトル図の矢印は、インパクトの直前(ボールがストリング面に接触した瞬間)、直後(ボールがストリング面を離れた瞬間)の速度や回転(スピン)の「大きさ」と「方向」を意味しています。
 速度は、大きさだけではなく、方向もとても重要です。
・ ボールはA➡B➡Cと飛んできて、Eでラケットにぶつかり、ラケットもA➡B➡Cとスイングされて、Eでボールにぶつかっています。
 ただし、緑の➡(スイングによるラケット・ヘッド速度)はD-E間を動く速さ、インパクトの瞬間の方向です。
 Eがインパクト・ポイントで、この場合は、ラケット面はほぼ垂直になっています。飛来するボール速度にマイナスの符号がついているのは、打球方向と逆方向だからです。
・ ラケットヘッドが速度を持っているので、飛来するボール速度とヘッド速度を足した値が衝突速度になって、ラケット面に衝突します。
 飛来するボール速度とヘッド速度は方向が異なるので、ベクトル的な足し算(平行四辺形の対角線)で、ラケット面への相対的な衝突速度は長い青のベクトルになります。
・ 長い青のベクトルが入射速度(入射角)になってストリング面に衝突し、図の反射角方向に跳ね返ります。
 スピン量が大きいほど、反射角(ピンク色)は小さくなります。
・ ラケット面に対して、反射速度の垂直成分と入射速度の垂直成分の比が「反発力係数e」です。
 この図では、反発力係数eの値は 0.2程度になっており、ストリング面の先端側(センターから10センチ程度)でインパクトしたことが推測されます。
 *図に示すように、反発力係数eの値は、ラケット面の打球位置により、0.2~0.6程度です。 スイートスポット(ラケット面のほぼ中心)では、0.4程度です。
・ スイングによるインパクトでのヘッド速度(緑の矢印)とボールの反発速度(ピンクの矢印)とのベクトル和が打球速度(赤の矢印)になります。
・ スピン量が増大するほど、反発速度の割合は小さくなり、打球方向のボール速度は低減します。 この例では、反発力係数eの値が小さいので、反発速度(跳ね返り速度)が小さくなっています。 スイングによるラケット・ヘッド速度は、10センチ先端側では 5 % 程度速くなります。

● (例)図2
:ストリング面のスイート・スポット(反発力係数0.4程度)でトップスピン打撃した場合のスピン量と打球速度(ストリング面の中心から先端側10センチでの打撃との比較)
(不鮮明ですみません!とりあえず、手書きの速報便です!)

図―2

・ ベクトル E – (K1) がストリング面の中心から先端側10センチで打撃したときの打球速度(速さと方向)、 ベクトル E – K2 がストリング面の中心で打撃したときの打球速度(速さと方向)を示しています。
・ ここでは、両者のボールの入射角と反射角の関係が同一としています。
・ E – H2 とE – Gの比が0.4、H2-I2 がスピン速度成分です。
平行四辺形 E-J-K2-I2 の対角線が打球速度になります。
・ 結果は、スイート・スポットで打撃した方が、先端側打撃より、インパクト直後の打球速度は13%程度速く、(ストリング面に平行な速度成分が大きいので)スピン量も大きく、打球の軌道が低くなっていることがわかります。
 *(注釈) 図では、ストリング面打撃位置のヘッド速度の5 % の違いを無視して表示したので、14 % 程度になっています。
・ ストリングのスピン性能が異なる場合については、別稿で紹介させていただく予定です。
(続く)

(参考資料)
・テニスラケットの科学(574)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる①
:打球速度とスピンを生むインパクトの構成要素
https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-574/

・テニスラケットの科学(576)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる②
:打球速度とスピンが生まれるインパクトの原理
:ベクトル図(大きさと方向)による解説
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-576/

・テニスラケットの科学(582)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる➂
:打球速度とスピンが生まれるインパクトの原理
:(インパクトにおける)飛来するボール速度、ラケット・ヘッド速度、ラケット面の角度、反発力係数と打球速度、スピン量の関係
https://kawazoe-lab.com/tennis_racket/science-of-tennis-racket-582//