テニスラケットの科学(590)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる⑧
:打球速度とスピンの生成原理(例5) ストリング(ナチュラル、ナイロン、ポリエステル)の反発力は同じなのに、ボールの飛びが違うのはなぜか?
(Natural、Nylon、Polyesterの打球速度の速さ、方向を予測)

●(追記:注釈)
 (混同が多いようですので、)
「反発速度(跳ね返り速度)」と「打球速度」、「ボールの飛び」の関係を確認したい場合は、下記を復習していただければ有難いです。
・テニスラケットの科学(574):スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる① :打球速度とスピンを生むインパクトの構成要素 | 川副研究室-KAWAZOE-LAB
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-574/

・テニスラケットの科学(576)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる②
:打球速度とスピンが生まれるインパクトの原理
:ベクトル図(大きさと方向)による解説
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-576/

●(図1)

図―1


・ ラケット・ヘッドを固定してボールを衝突させる実験では、ストリングスの素材の違い(ナチュラル、ナイロン、ポリエステル)による反発係数あるいは反発力(跳ね返り速度)の違いはありません。
 しかし、ボールの飛びが違うといわれます。
 それは、なぜでしょうか?
・ フォアハンドのインパクト条件が同じとして、ストリング素材がナチュラル、ナイロン、ポリエステルの場合の打球速度(速さと方向)の違いをベクトル図で予測しました。

●(図2)

図―2

・ ストリング素材と反発係数の実験例です(実験風景と文献は図6参照)。
 ナイロン2種類、ナチュラル(天然ガット)1種類、ポリエステル4種類について(表参照)、テンションはそれぞれ52ポンドと62ポンド、マシンから発射するボールの角度は、ストリング面(正面)に対してスピンが発生しやすい斜め40度に設定してあります。
・ テンション素材の違いによる反発係数の違いはありません。
  反発係数が1.0(完全弾性衝突:衝突エネルギ損失無し)より低いのは、ほとんどボールの変形によるエネルギ損失によるものです。

●(図3)

図―3


 国際テニス連盟(ITF)も実験を行い、ポリ系ストリングのスピンは、ナイロンよりも20パーセント大きく、ナチュラルよりも11パーセント大きいことを2013年に発表しました。(2013,ITF*)
ここでは、
ナチュラル(天然ガット)100%に比べて、
ポリエステルは、11 % 大きく(110 %)、
ナイロンは、9 % 小さい( 91 %)
を仮定して、打球の速さと方向をベクトル図で予測します。

●(図4)

図―4

・ 図は、フォアハンドのインパクト条件が同じとして、ストリング素材がナチュラル、ナイロン、ポリエステルの場合の打球速度(速さと方向)の違いをベクトル図で予測した結果です。
 素材(ナイロン、ナチュラル、ポリエステル)の違いによる
・打球の速さは、ほぼ同じ(0.7%の範囲)
・水平から上方向への打球の方向(角度)は、おおよそ
ナイロン(10度)、
ナチュラル(8度)、
ポリエステル(6度)
です。
ナイロンが最も大きく(高く)、ポリエステルが最も小さい(低い)という結果になっています。
 したがって、
打球の速さはほとんど同じであるが、反発力係数とスピン量によってラケット面に平行な接線方向の速度が異なり、打球の上向き角度がナイロン、ナチュラル、ポリエステルの順で大きく、結果として、飛距離はナイロンが長く、ポリエステルが短いということになります。
 すなわち、ボールの飛びの違いは、ストリング素材の反発性の違いによるのではなく、スピン量が少ない素材ほど打球速度の方向がヘッド速度の方向に近く、飛距離が伸びるということです。
*sin 12度=0.21、 sin 16度=0.28、 sin 20度=0.34
 スピンがなく、重力だけしか影響しない場合は、打球の角度の違いにより、ナイロンの飛距離はポリエステルの1.6倍になるかと思います(アウトになる!)。
* 打球速度が時速110キロ、ナチュラルのスピン量2600rpmとすると、おおよそ、
ナイロンのスピン量は2400rpm(93%)、ポリエステルのスピン量は3000rpm(115%)程度になるかと思います。

● (図5)結果のまとめ

図―5

●(図6)

図―6

参考資料:実験風景と文献
●(図7)

図―7


参考資料:(実験結果)ストリング素材とスピン量
 ナイロン2種類、ナチュラル(天然ガット)1種類、ポリエステル4種類について(表参照)、テンションはそれぞれ52ポンドと62ポンド、マシンから発射するボールの角度は、ストリング面(正面)に対してスピンが発生しやすい斜め40度に設定してあります。
 結果は、ナチュラルに比べて、ポリエステルはスピン量が多く、ナイロンはスピン量が少ないことを示しています。

●(参考資料)
・テニスラケットの科学(588)
:スピン量と打球速度はインパクト(1000分の3~5秒)で決まる⑦
:打球速度とスピンの生成原理(例4)
「使用済みストリングは(ストリングが古くなると)、ボールが飛び過ぎる!」のはなぜか?
(新しいストリングと古いストリングのスピン性能とボールの飛びのメカニズム)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-588/
(参考文献)
・Which Strings Generate the Most Spin?、
Rod Cross and Crawford Lindsey, Tennis Warehouse University、 2011.