テニスラケットの科学(601)
:(2020年9月29日初投稿)
:ヨネックスのラケット:研究の思い出(6)

● ヨネックスのカタログによると, バイブレーション・コントロール・シャフトを採用してフレームの快適な振動のみを伝えるという基本(一次)固有振動数設計を意識した2種類のラケット,すなわちV-CON20(設計目標振動数170Hz)とV-CON17(設計目標振動数150Hz)について,パワーと手に伝わる衝撃振動に関する性能を実験的同定に基づく衝突解析により求め,両者の違いを明らかにしました.

●(追記:2023年9月29日)
・ラケットの振動は,図のように1次,2次,3次,,,,と多くの振動の変形の形(モード)と振動数からなっています.各モード図(振動変形の形)は、上段は横から、中段は斜めから、下段は上から見た図です。 4次(4th)がストリングの膜の形(モード)をした振動です.
 反発係数に最も影響する重要なモードが1次(1st)の曲げ振動ですが,スイートエリアで打撃すると,ほとんど現れません.(図の振動の形の大きさは,形を見やすくするために拡大したものです.)
・一方,ストリングの振動(膜の1次振動モード)は,ストリング面の上下振動ですが,スイートスポット(ストリング面中心)でボールを打撃したときに最も大きく振動します. しかし,ストリング面振動は,ストリングの重量が小さく,周辺が振動の節になっていることもあって,フレームには伝わりにくく,プレイヤーの上肢への影響はほとんどありません.
・打球音について(ご参考までに)
ボールの1次の固有振動数(伸縮モード)は,約400ヘルツ(Hz)程度なので,ストリングを緩めに張ってスイートスポットで打球すると,ストリング面の膜振動モードとボールの伸縮振動の振動数が近く(共振,共鳴状態に近く), しかも,スイートスポットで打撃したときはフレーム振動が小さく,ストリング振動が大きいので,「スコーン(?)」という良い音がでます!
 ストリングを緩く張る程,ストリング面の膜振動は低くなります.高校物理ででてくる楽器の弦の振動数と同じ原理です.

・振動の腹と節について(ご参考までに)
振動モード図の白と黒の境目が振動の節で, 節で打球すると,その振動モードは現れません. また,黒の真ん中付近および白の真ん中付近が振動の腹で,腹で打球すると,その振動モードが大きく現れます. しかし,次数が高いほど振動の形が複雑に変形するので変形に必要なエネルギが大きく,現実のテニスのインパクトでは高次振動の振幅は大きくはなりません.1次振動モード(2節曲げ:節がラケット面中心付近の線上とハンドルの握りの位置付近に存在する)の大きさが重要な振動因子です.

図ー1


図―2

(追記)
 論文(参考文献)の結論を要約すると、以下のようになります。
・ メーカー・カタログによると
 バイブレーション・コントロール・シャフトを採用してフレームの快適な振動のみを伝えるという基本固有振動数設計を意識した2種類のラケット, すなわちV-CON20(設計目標振動数170Hz)とV-CON17(設計目標振動数150Hz)について, パワーと手に伝わる衝撃振動に関する性能を実験的同定に基づく衝突解析により求め, 両者の違いを明らかにした.
・ すなわち,V-CON17(設計目標150Hz)はV-CON20(設計目標170Hz)に比べて, 打球速度(パワー)には大きな違いがないが, ラケット・グリップと手首関節の衝撃振動は,特にラケット面手前側の打撃において低減する.
・ ただし,実際のプレーにおいて重要な先端側打撃での衝撃振動低減に改良の余地がある.
・ なお,本研究の一部は平成15年度科学研究費基盤研究(B),平成16年度科学研究費基盤研究(C)および埼玉工業大学ハイテクリサーチセンターの援助によって行われたことを付記する.

(参考文献)
・基本固有振動数設計を意識したテニスラケットのボールの飛びと打球感に関する性能予測
川副 嘉彦,赤石 武章,友末 亮三、吉成啓子,
スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2005 2005-09-11 p.84~89

基本固有振動数設計を意識したテニスラケットのボールの飛びと打球感に関する性能予測