テニスラケットの科学(609)
:打球感のメカニズム
:インパクトの衝撃はどのように手に伝わるか②

● 衝撃と衝撃反力
:インパクトの瞬間に発生する衝撃力が大きいほどボールは良く飛ぶ
・(続き) 
 図1は、 グリップ・エンドから手の中心までが70mm(グリップエンドから約20mmを余して持つ)の位置で支えたラケットの打球面の中心に、 ボールが衝突速度20m/秒(時速72km)および30m/秒(時速108km)で衝突したときのインパクトの衝撃力を計算した例です。 縦軸が力であり、横軸は時間です。 この図は、テニスラケットの科学(608)・表1に示したラケットEX-Ⅱ(ストリングを張って360g)の例です。 衝突速度が大きいほどインパクトの衝撃(図の面積に比例する)は大きく、
 衝突速度が増すほど、瞬間的な衝撃力の最大値の大きくなり、 インパクト・タイムは短くなります。
 衝突速度30m/秒(時速108km)のときの衝撃の大きさは、 20m/秒(時速72km)のときの衝撃の約1.5倍ですが、 瞬間的な衝撃力衝撃力の最大値は 30m/秒のとき約130 kgf、20m/秒のとき約63 kgfであり、 30m/秒の場合は、20m/秒の場合の約2倍になっています。

図―1

・ インパクトの衝撃はボールを跳ね返す力となり この衝撃が大きいほど、ボールは速い速度で跳ね返るのです。 インパクトの衝撃の大きさは、ボールとラケットの衝突速度の大きさでほとんど決まりますが、 ラケットの種類や打球面の打点の位置、グリップの握りの位置の違いによっても変わってきます。

・ 一般に反発力の大きいラケットほどインパクトの衝撃も大きくなります。 ただし、後に説明しますが、 ラケット面に作用する衝撃と、ラケットを支えた手の位置に作用する衝撃反力の大きさとは別のものです。 ラケット面の衝撃が大きくても、手に衝撃をまったく感じないようなグリップ位置も存在します。 あるいは、ひとつの決まったグリップ位置に対して、 衝撃をまったく感じさせないラケット面上の打撃点というのも存在します。 いわゆる「打撃(衝撃)の中心」と言われるものがそれです。

● 図3:ラケット面上の衝撃とグリップの衝撃反力
・ 図に示すように、インパクトによる衝撃 S がラケットの打球面に作用すると、ラケットを支えた位置に衝撃反力 SR が作用します。 この衝撃反力 SR は、 ラケットの種類やストリング面の打撃点、グリップ位置によりかなり違ってきます。

・ 図は、衝突速度30m/秒(時速108km)のときの  (a) ノーマル・ラケットEX-Ⅱ(ストリングを張って360g)と、 (b) 軽量トップヘビー EOS100 (ストリングを張って290g)の
 衝撃 S と衝撃反力 SR を示しています。 打撃点はストリング面中心から70mm先端側で、グリップ位置(手の中心位置)はグリップ端から70mmです。 これによると、 衝撃 S の大きさはほとんど同じにもかかわらず、 衝撃反力 SR はEOS100 (ストリングを張って290g)の方が 30% ほど小さくなっています。

図―3

・ 次稿では、ボールが30m/秒(時速108km)でラケットに衝突したときの、 ラケット面上の衝撃の大きさ、および衝撃反力を、 テニスラケットの科学(608)・表1のラケットについて計算した結果を紹介させていただきます。 異なるタイプのラケットについて、ストリング面上の打撃点の位置と衝撃力および衝撃反力がわかります。
(続く)

(参考文献)
・Yoshihiko KAWAZOE,
Mechanism of Tennis Racket Performance in terms of Feel,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.49 (2000), pp.11-19
(参考資料)
・川副嘉彦、
ラケットの科学II-⑤、
月刊テニスジャーナル,12巻12号(1993年12月号), pp. 78-83.