テニスラケットの科学(608)
:打球感のメカニズム
:インパクトの衝撃はどのように手に伝わるか①

● 手に伝わる情報は、衝撃と振動の2種類
・ インパクトの瞬間、そしてその後、ラケットを持つ手は何を感じ取っているのでしょうか。 プレイヤーとラケットを結んでいるのは、手で支えたグリップの部分だけだから、「打球感」という言葉で表される情報は、「音」以外はすべてグリップを通してプレイヤーに伝わることになります。

・ その情報には、衝撃と振動の2種類の要素があります。 インパクトでは、ボールとラケットの間に瞬間的に大きな「衝撃力」が発生します。 そして、それはグリップ部分(ラケット・ハンドル)を支える手には「衝撃反力」として伝わります。  また、 インパクト・タイム(ボールとストリング面の接触時間)は非常に短いものであるため、衝撃力の他にもフレームの細かい振動が発生し、それもグリップを通して手に伝わります。

・ つまり、プレイヤーは、グリップに伝わる衝撃と振動によってのみインパクトを感じることになります。 したがって、グリップの衝撃・振動は、そのまま打球感として神経を通して脳に伝わり、それが、その人にとって心地好いか悪いかによって、ラケットの好き嫌いが大きく左右される要素となるのでしょう! また、それ以外にも、テニス・エルボーなどの障害とも関連するはずです。

・ また、プレイヤーはインパクトでの手の感触(手ごたえ)によって、自分のスイングやラケット面上打点位置をチェックしているようにも思えます。 グリップの衝撃の大きさにより自分が打球面のどのあたりで打っているかを知ることができるのです。 しかし、その際、グリップの振動が、インパクトの感触(手ごたえ)を複雑でわかりにくいものにしているという面もあります。

・ まず、そうした手に伝わる衝撃・振動のうちの衝撃のほうにテーマを絞り、 異なるタイプの市販ラケット数種について、 インパクトにおけるグリップの衝撃反力の調査結果を紹介させていただきます。
 その結果に基づいて、 ラケットのタイプ、あるいはラケット面上の打点位置およびグリップ位置が違うと、手に伝わる衝撃がどう変わるかを考えてみます。

● 表1 実験に用いたラケットの仕様と物理特性
・ 実験対象とした市販ラケット6本の仕様と物理特性を表1に示します。 これらは、それぞれ重量、フェース面積、フレーム厚(剛性)、バランスなど、タイプが異なっています。

表ー1

● 参考図:ラケットの変遷
(木製ラケットから最近のハイテク・ラケットまで)*

参考図

● 図1:インパクトの衝撃力(ボールとラケットの間に作用する力)
 ・ 千分の数秒」という一瞬のインパクト・タイムの間に、どのようにラケットに衝撃力が作用するかを示しています。 衝撃の大きさは、図の面積(色の濃い部分の面積)で表され、 これが大きいほどボールを跳ね返すパワーが大きく, 速いボールが飛んでいくことになります。
(続く)

図―1

*川副嘉彦,
(特集:素材とスポーツ)テニスラケットの素材・構造と性能、
バイオメカニクス研究(日本バイオメカニクス学会誌),第7巻2号,(2003), pp. 136-151.
https://kawazoe-lab.com/research/tenisutakettonosozai/
https://kawazoe-lab.com/wp…/uploads/2016/08/20030020.pdf

(参考文献)
・Yoshihiko KAWAZOE,
Mechanism of Tennis Racket Performance in terms of Feel,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol. 49 (2000), pp. 11-19.
・川副嘉彦, 
テニスラケットの打球感に関する性能予測とメカニズム
第49回理論応用力学講演会講演論文集,pp. 125-126, (2000) 日本学術会議
・川副嘉彦・友末亮三・吉成啓子・Federiko CASOLO,
テニスのインパクトにおいてラケットから腕関節へ伝達される衝撃力の解析
日本機械学会第9回バイオエンジニアリンッグ講演論文集,No. 96-48,(1997), pp. 185-186.