テニスラケットの科学(611)
:打球感のメカニズム
:インパクトの衝撃はどのように手に伝わるか➃

● 衝撃と衝撃反力
:発生する衝撃力と、手に作用する衝撃反力は別のもの
(先端側で打つ場合は、デカラケやトップヘビーの方が手に伝わる衝撃は小さい)
 
・ 図3のように、インパクトによる衝撃 S がラケットの打球面に作用すると、ラケットを支えたグリップ位置に衝撃反力 SR が作用します。 この衝撃反力 SR は、ラケットの種類やストリング面の打撃点、グリップ位置によりかなり違ってきますが、図の例は、衝突速度30m/秒(時速108km)のときの (a) ノーマル・ラケットEX-Ⅱ(ストリングを張って360g)と、(b) 軽量トップヘビー EOS100 (ストリングを張って290g)の衝撃 S と衝撃反力 SR を示しています。 打撃点はストリング面中心から70mm先端側で、グリップ位置(手の中心位置)はグリップ端から70mmです。 これによると、衝撃 S の大きさはほとんど同じにもかかわらず、衝撃反力 SR はEOS100 (ストリングを張って290g)の方が 30% ほど小さくなっています。

図―3

・ 図4は、ボールが速度30m/秒(時速108km)でラケットに衝突するとき、グリップを持つ位置により衝撃反力SRの大きさがどう変わるかを示しています。 ストリング面中心から約40mm先端側にボールが衝突したときの計算結果です。 横軸はラケットを持つ位置(グリップ端からの距離)、縦軸が衝撃反力の大きさ(力積:力の時間積分)です。 衝撃反力SRがプラスの場合はボールに押されるような力を受け、マイナスの場合はボールが跳ね返る方向に引っ張られるような力を受けます。 SR=0 の場合は手に作用する衝撃がないことを意味します。

図―4

・ ストリング面の先端寄りで打撃したときは、ラケットを極端に短く握る場合を除いて、どのラケットもボールが跳ね返る方向に衝撃反力を受けることがわかります。 また、 ラケットをめいっぱい長く持ったとき(握った手の中心が30mmの位置)衝撃反力はもっとも大きくなります。 フォアハンドの標準的グリップ位置(手の中心が70mm)では、衝撃の大きいラケットは従来型重量バランスのノーマルと厚ラケで、これらは短く握った方がグリップの衝撃を小さくすることができます。 ストリング面の先端寄りで打撃したとき、グリップの衝撃が小さいラケットは、小さい方から超デカラケ(120平方インチ、超軽量トップヘビー、292g-strung)、デカラケ(110平方インチ、366g-strung)、超デカラケ(120平方インチ、従来型バランス、366g-strung)、超軽量トップヘビー(100平方インチ、290g-strung)の順になっています。
(続く)

・ 続稿では、 ストリング面のほぼ中心で打撃するとき、 さらに、 ストリング面中心から約40mm根元側にボールが衝突したときの計算結果の例を紹介させていただきます。

(参考文献)
・Yoshihiko KAWAZOE,
Mechanism of Tennis Racket Performance in terms of Feel,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.49 (2000), pp.11-19
(参考資料)
・川副嘉彦、
ラケットの科学II-⑤、
月刊テニスジャーナル,12巻12号(1993年12月号), pp. 78-83.