テニスラケットの科学(630)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり!
:打撃用具としてのストリングの反発性能についての大誤解を解く!
:ストリングの弾性率(ヤング率)も弾力性(伸縮性)もストリングの反発係数には無関係!

● 反発係数に関係するのは、インパクトにおけるエネルギ損失の大小です!

● テニス雑誌の最近号*の記事の“ストリングを張り替えるタイミングを教えて!”という質問に対して、 『3ヶ月に1回は張り替えましょう』という科学的な裏付けとして、 “ ストリングを張ってしまうと、たとえ一度も使用しなくても、早いもので半月、最長でも3ケ月で硬化し、伸縮性(弾力性)が失われ、ボール飛ばなくなる”という日本ラケット工業組合の説明を引用していますが、 ストリングの「弾性率」と「弾力性」、あるいはインパクトにおける反発力のメカニズムについての誤解があり、
このデータが科学的な根拠にはならないという異見!を、テニスラケットの科学(629)で、紹介させていただきました。
* テニス雑誌スマッシュ、2023年11月号、pp. 46-47. テニス雑誌の記事*では、
“ ストリングを張ってしまうと、たとえ一度も使用しなくても、早いもので半月、最長でも3ケ月で硬化し、伸縮性(弾力性)が失われ、ボール飛ばなくなる”
という説明がありますが、科学的には、
“ ストリングを張ってから1か月以上たたないと、弾性率と弾力性(ストリングの振動数や音の高さ)が安定しない”
という弦楽器としての性能を示していることになります。
ただし、ボールを打撃すれば、ストリングは、張り上がり・テンションよりもはるかに大きな力で、伸び縮みする衝突を繰り返すわけですから、もっと短い時間(数日?)でストリングの弾性率も弾力性(バネの強さ)も安定化するのではないかと思います。
また、「弾性率」が高くなったら「弾力性」が低くなるといったことはありません。
材料にもよるかと思いますが、むしろ、バネは硬い方がエネルギ損失が少なくて、弾力性も保たれる場合の方が多いかもしれません。
図1、図2に示すように、 弾性率は荷重と変形量の比、 弾力性は元に戻るバネの性質ですから、
図のデーターは、1か月経つとストリングの「バネ定数が一定になって、安定することを示しています。

図―1

図―2

● ストリングの「弾力性」と「反発性能に関する寿命」について(ご参考まで)
: テニスラケットの科学(623)参照
・ 元・シドニー大学准教授の R. Cross (物理学)と元・米国ラケット・ストリンガー協会の機関誌・編集長のC. Lindsey(高分子化学)の共著による教科書「Technical Tennis ©2005」(テクニカル・テニス、常盤泰輔訳 2011年発行)には、
“ストリングが古くなっても、いかなる定量的な意味においても、「パワー」や「弾力性」を失うことはないし、「寿命」がつきることもない。”
“ 本来ストリングというものは弾力性を失うことはない。
ストリングは、いつでも100%の弾力性を有している。
すなわちストリングは毎回、衝突前の長さに戻る。
そうでなかったら、ストリング面の中心がたるみだすはずである。
ストリングは伸縮性を失うこともない。

と書いてあります。

図―3

また、
“ 何年間も使い古されたストリングは、新品の状態よりも伸びる量が小さい。
しかし、それにもかかわらず、ボールと衝突して吸収した弾性エネルギーの95%を再放出する。
同様に、ストリングテンションが低下した場合、あるいは「ストリングが死んだ」とプレーヤがいう場合でも、ストリングのパワーが低下して再放出するエネルギーが減少することはない。
ストリングのパワーは同じである
(もちろん大きくは、ならない)。

と書いてあります。

図―4

● なお、新品と古ストリングのボールとの反発係数については、ラケットフレーム(ヘッド)を固定したラケットのストリング面にボールをマシンで衝突させて、ボールとストリング面の反発係数を測定した実験データがあります。(図5)

図―5

・ 実験結果は、ストリングが古くなってもボールとの反発係数は変わらないことを示していますが、
スピン性能は、ラケットを使うほど、低下していきます。

● テニスラケットやストリングの性能については、まだまだ、弦楽器としての性能と打撃用具としての性能が別物という理解が進んでいないようです!
「張り上がりテンション」ではなく、
「インパクトにおけるテンション(張力)」が大きいほど、
ストリング面の復原力、反発力も大きく、打球速度も大きくなる
と考えれば理解しやすいかと思います。
「インパクトにおけるテンション(張力)」に影響するのは、「張り上がりテンション」ではなく、ボールとラケットの衝突速度、すなわちラケットヘッドの速度です。

●(参考資料)
・テニスラケットの科学(629)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり!
:科学的な裏付けがあるという『3ヶ月に1回は張り替えましょう』は、非科学的! (ストリング性能の寿命に関する誤解を解く!)①
:弾性率(荷重と変形量の比)の大小と弾力性(元に戻るバネの性質)は無関係!
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-629/
・テニスラケットの科学(623)
:テニスラケットの科学(356)の補足2
:(サイト)「テニスを人一倍楽しむ方法」に掲載された記事の紹介
: 【ストリングの真実】 「ストリング・ガットの寿命について科学的に考える/
「3ヵ月以内」に張り替えなければならないってウソ?本当?
|川副研究室の研究結果を踏まえて」*
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-623/
・テニスラケットの科学(324)
:スピンとストリング(68) : プロのストリンガーも誤解しているストリング
:ストリングは(ナチュラル・ガットもナイロンも)、古くなっても(使用しても)反発性能は低減しない。
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-324/

●(追記:2026年2月1日)
(参考文献)
・テニスラケットのストリング性能論1
(パワー,コントロール,打球感と性能の寿命に関する考察)
川副 嘉彦,
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2013, pp.”313-1″-“313-10”.
・テニスラケットのストリング性能論2
 (ボールコントロールとスピンにおよぼす諸因子の影響)
川副 嘉彦,
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2013、 pp.”314-1″-“314-10”.
・Effects of String Pre-tension on Impact between Ball and Racket in Tennis
Yoshihiko KAWAZOE、
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.43(1994), pp.223-232.
・テニス・プレイヤ手首部の衝撃振動におよぼすストリングス・テンションの影響
(フォアハンド・グランドストロークにおける手首部加速度の予測とメカニズム)
川副 嘉彦,友末 亮三,一木 公央、
ジョイント・シンポジウム : スポーツ工学シンポジウム・シンポジウム:ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2001、 pp.84~88.
・ゆるいガットはテニス肘防止になるか?
(フォアハンド・ストロークにおける手首部およびサービス・ストロークにおける肘部の衝撃振動の測定)
川副 嘉彦,友末 亮三,村松 憲 他、テニスの科学 (日本テニス学会機関誌)第10巻  2002  p.10~12
・Experimental and theoretical criticism of the effectiveness of looser strings for the reduction of tennis elbow
Kawazoe, Y., Tanahashi, R. and Casolo, F.
Tennis Science & Technology 2 (edited by S. Miller), pp.61-69. (2003). London: International Tennis Federation.
・テニスのパフォーマンスに与えるストリングスの物理的影響と心理的影響
(アガシ選手のストリングスとパフォーマンスの関係をどう理解すべきか)
川副 嘉彦
テニスの科学 / 日本テニス学会 [編] 第12巻, 2004, p.14~18
・Solution to the Mystery of the Effect of String Tension on the Actual Impact between a Tennis Ball and Racket
Yoshihiko KAWAZOE、
The Impact of Technology on Sport, ASTA Publishing, (2005), pp.156-162.
・世界のトッププロはなぜポリエステル・ガットを使うのか
(ストリング潤滑ラケットとスパゲッティ・ラケットの超高速ビデオ画像解析からの考察)
川副嘉彦、
テニスの科学 第14巻(2006年)pp.18-19.
・Proper Tennis Top Spin Reduces the Impact Shock Vibrations of the Player’s Wrist Joint
Yoshihiko Kawazoe and Kenji Okimoto,
10th World Congress of Society for Tennis Medicine and Science(第10回国際テニス・スポーツ医学会議), Program & Abstract, p.72 (2008)
・なぜプロは試合中にラケットを替えるのか
(ストリングの武器としての性能と弦楽器としての性能のメカニズム(実験と理論に基づく考察))
川副嘉彦,
テニスの科学(日本テニス学会機関誌)、第26巻、2018, pp.70-71.