テニスラケットの科学(789)
:テニスラケットの科学(111)の補足4
:研究の思い出 1990
:ヤマハ(株)スポーツ研究室室長・T博士からのラケット研究開発の進め方についてのアドバイス

● 研究の思い出 1990年
 下記は、ヤマハ・スポーツ事業部研究室との研究会において、 当時のスポーツ研究室室長・T博士からいただいたアドバイスです。
 3つの課題はそれぞれ相当に難しく感じましたが、課題1と課題2は、思いのほかスムーズに短期間で解決することができました.
 インパクトは非線形力学なので、力積波形の算出は、アイディアを思いつくまでに時間がかかりましたが、「機械力学」の講義中に学生に図式解法を説明しているときに、ハッと思いつきました.
 インパクトの力積波形が算出できれば、インパクト諸量のすべてが算出できます.
 最初は図式解法で算出してみてうまくいったので、次に、それを、数値計算プログラムに展開することができ、ラケット振動も考慮したボールとラケットの反発係数も、振動がない場合の初期値を与えて振動による「エネルギ損失を計算し、収束するまで繰り返し計算することにより、意外とスムーズに算出することができました.
課題3は、難題で、多くの研究がなされていましたが、特に、個人的には、ナイロンガットの表面を粗くして摩擦を大きくした(俗称)「スピンガット」のスピン量が増えないという実験結果が謎でした.
 表面の摩擦の少ないツルツルの「ポリエステル・ストリング」がなぜスピン量が増大するのかがわかるのは、2004年以降の実験まで待たなければなりませんでした!
 残念ながら、ヤマハはすでにテニスラケット事業からは撤退していました!
           記
 『一般論としては,
①ラケット外形寸法,
 ②質量分布,
 ③フレームの剛性分布,
 ④ガットの面圧分布(メッシュの粗さとガットテンション),
 ⑤ボールの変位一力特性(非線形),
などの物理特性に対して,ボールがある速度とある角度でラケットと衝突した瞬間からリリースする迄の間にラケットがどのように挙動するか,
 また ボールの速度とスピンがどうなるかがクリアーになれば,これは理想であり期待されるところでもあるが,何と云つても挙動にかかわるFactorが多く,莫大な実験と歳月を要することになることが予想される.
 当社の力で色々進めてきた苦い経験から,例えば以下のような絞り込んだテーマにした方が,研究としての成果が出易いのではないかと思います。
課題1. 飛びをよくするにはどのような物理特性を最適化すればよいか?
条件:
ボールガット系の非線形性を考慮の上に考える.
物理特性は,質量分布,剛性分布,ガット面圧分布等で 振動モード絡みでスイートエリア(反発係数分布), 打撃の中心,スイートスポットの位置がどう定まるか.
課題2. 打球惑と物理特性の関係について 人間系を含めると,振動が大きくクローズアップしてくる.
課題3. ボールのコントロール性能と物理特性の関係について スピンが研究の課題としてクローズアップしてくる.
等が考えられます。』

(参考記事)
・テニスラケットの科学(111) 研究の思い出 :ヤマハにおけるインパクト実験映像(1)ノーマルラケットのストリング面先端での衝突挙動 1990年
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-111/

(抜粋・引用記事)
・川副嘉彦、
 私のテニス研究遍歴5話 (知は現場にあり)
 JSEA機関誌「スポーツ工学」,第6号(特集「新分野創設者によるスポーツ工学研究レビュー」),pp.21-31 (2011)
https://kawazoe-lab.com/research/tennis_kennkyuu/