テニスラケットの科学(791)
:テニスラケットの科学(111)の補足6
:研究の思い出
:テニスラケットの性能予測(その2) since 1987年?
:ヤマハの『課題3. ボールのコントロール性能と物理特性の関係について スピンが研究の課題としてクローズアップしてくる』
ヤマハの『課題3』は、難題で、ストリングとスピンの関係については多くの学術的研究がなされていたにもかかわらず、ストリング素材の表面摩擦を大きくしてもスピン量に影響しないこと、ナイロンガットの表面を粗くして摩擦を大きくした市販の(俗称)「スピンガット」のスピン量が増えないという実験結果が謎でした.
表面の摩擦の少ないツルツルのストリング素材がスピン量が大きいこと、「ポリエステル・ストリング」がなぜスピン量が増大するのか、 スピンとコントロール性能の関係が明らかになるのは、2004年以降の実験まで待たなければなりませんでした!
残念ながら、ヤマハはすでにテニスラケット事業からは撤退していました!
以下は、「スポーツ工学」掲載記事(川副、2011年)*からの抜粋引用・補足です.
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『トップスピンの謎を解く:非デカルト的展開』
表面がギザギザしたテニスラケットのガット(ストリング)よりツルツルしたガットの方がボールに回転がかかりやすことを2005年のスポーツ国際会議で発表しました.
従来のスピン仮説とは逆に,ストリング表面の摩擦が小さいほど,トップスピン打撃において縦糸と横糸の交差点がずれてボールが食い込み,縦糸が戻るときのストリング面内復原力によりボールのスピン量が増すこと,縦糸と横糸の交差点にノッチのできたストリングスでも交差点を潤滑するとボールのスピン量が回復し,接触時間も長くなること,接触時間が長くなるとラケットや手に伝わる衝撃振動も低減すること,すでに世界のトップ・プレーヤーは天然ガットよりもツルツルで硬いポリエステルを使っていることを示し,従来のスピンガット設計概念を180度転換すべきことを主張しました.28)- 32).
これがトリガーとなって,ITF(国際テニス連盟),The United States Racket Stringers Association などで議論や実験がなされ,最近,テフロン加工,扁平形状断面,コーティングなど,滑りやすいメカニズムの利点を活かしたガットが国内外メーカーにより次々に市販され始めました.
最近の新しいガットが極端なスピンの変化をもたらすとしたらルール違反とすることをITF(国際テニス連盟)は明言しています が,現時点ではむしろ単調な試合を面白くし,プレーヤーの障害防止に貢献しているはずです.
この研究は,沖本賢次・啓子夫妻のテニスの現場から始まりました.
テニスのプレー中にしばしばガットがずれる.
ズレをもとに戻すのがめんどくさいねと奥さんが旦那に言ったら,エンジンオイルでも塗っとけと旦那が言ったことが国際特許となる潤滑剤開発の始まりです.過去に旦那が工場でバイクの組み立ての仕事をしていたこともエンジンオイルを塗ってみる発想につながったようです.
ストリング交差点を潤滑すると、誤解が多かったのですが、ストリング面の反発力が増すのではなく、スピン性能(スピン量、コントロール性能)が増すことがわかりました.
スポーツの研究では,先入観と異なる結果が出るという例が多くみられるようです.
実験では,必ずしもそのようにならないのに,ストリング表面の摩擦が大きい方がスピンがかかるというのがそれまでのストリング・メーカや研究者の間違った常識・先入観・固定観念(?)でした.
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20年経過してポリエステル・ストリングがナチュラル・ガットの打撃性能を凌駕してしまった現在でも、一般テニス雑誌などの解説記事を読むと、そのような先入観をもったテニスの専門家がまだ多いように感じます.
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*(抜粋・引用記事)
・川副嘉彦、
私のテニス研究遍歴5話 (知は現場にあり)
JSEA機関誌「スポーツ工学」,第6号(特集「新分野創設者によるスポーツ工学研究レビュー」),pp.21-31 (2011)
https://kawazoe-lab.com/research/tennis_kennkyuu/
(参考論文)
・Yoshihiko KAWAZOE and Kenji OKIMOTO、
Super High Speed Video Analysis of Tennis Top Spin and Its Performance Improvement by String Lubrication
The Impact of Technology on Sport, ASTA Publishing, (2005), pp.379-385.
https://kawazoe-lab.com/…/super-high-speed-video…/
実打実験において、いわゆる「スナップバック現象」をとらえた世界初の論文です.「スナップバック」という用語が定着したのはだいぶ後(5年後?)です.
・川副 嘉彦、
テニスに関する実験力学的研究 : 目に見えないものを見る
(ラケットのスピン性能の謎を解く (特集 スポーツ工学))
実験力学 / 日本実験力学会編集委員会 編 5(4) 2005, pp. 335~342.
・川副 嘉彦, 沖本 賢次, 沖本 啓子、
テニスラケットのスピン性能のメカニズム
(ストリング交差点潤滑によるスピン性能向上の超高速ビデオ画像解析)
日本機械学会論文集. C編 72(718) 2006-06, pp. 1900~1907.
https://kawazoe-lab.com/research/mechanism-of-racket-spin/
・KAWAZOE Yoshihiko, OKIMOTO Kenji、
Tennis Top Spin Comparison between New, Used and Lubricated Used Strings by High Speed Video Analysis with Impact Simulation
Theoretical and Applied Mechanics Japan, Vol.57, 2009, pp. 511-522.
https://kawazoe-lab.com/research/tennis-top-spin-comparison/
・川副 嘉彦, 武田 幸宏, 中川 慎理,
テニスラケットのスピン性能におよぼすガット・ノッチの影響
(スピン量・接触時間・打球速度の超高速ビデオ画像解析)
日本機械学会論文集. C編 76巻(770号) 2010-10, pp. 2646-2655.
https://kawazoe-lab.com/research/notch/