テニスラケットの科学(815)
:テニスラケットの科学(814)*の補足1  
:研究者も抱きやすい「ストリング・テンション」に関する先入観
:手首・肘・腕・肩などに伝わるショック(衝撃)とテンションの関係
:テニス経験の深い神和住純氏(元デ杯選手、元法政大学教授)のテンションに関する考察へのコメント
:川副研究室 *テニスラケットの科学(814) 

:研究者も誤解しやすい「ストリング・テンション」  https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-814/

 一般に,試打者(テスター)によるテンションと打球速度との関係を調べる実験は,試打者の打球コントロールのバラツキが大きいために信頼性を確保するのが難しいのですが, テニスラケットの科学(814)で紹介したストリング・テンションとサービス速度の実測値**と考察は,試行者がテニスに習熟した神和住純・元デ杯選手という意味で貴重です。
 神和住純氏の「テニスにおけるストリングテンションとサービス速度の考察」*の興味深い部分を抜粋・引用し,多少のコメントをさせていただきます。
*神和住純,テニスにおけるストリングテンションとサービス速度の考察,法政大学「小金井論集」第3号,pp. 171-185, (2006).
 抜粋・引用、
“(本研究*は,)ストリング(ガット)のテンション(強度)を緩く張ったり,強く張ったりして,実際にサービススピードがどのように変化するのか,また,選手のプレースタイルや身体にどのような影響を及ぼすかを考察する。”
のがこの研究報告の目的です。
 研究報告の実験結果についての考察は,
 抜粋・引用、
” その結果,当初考えていた説(緩く張った方がスピードが出る)と言う,仮説理論は少し違っていた。意外にもデータ(表-3,図-2)に表れているように,30ポンドから70ポンドまでの,5種類のラケットは平均速度,最速記録がほとんど同じ結果となったのである。
 従って,緩く張っても強く張っても同じ人が同じパワーで打球すれば,変化は殆どないという事である。
 そういえば,1970年代,ボルグ選手(プロテニスプレーヤーの世界No. 1)が80ポンドでキンキンに張り,一方マッケンロー((プロテニスプレーヤーの世界No. 2)は40ポンドで緩く張り,同じようにサービスエースを奪い合っていた訳であるから,あくまでも,その選手が打球する感触が問題であり, 従って,ある程度の技術とパワーがあれば強く張っても緩く張っても同じスピードが出るという結果になったわけです。
 但し,初心者があまり強く張るとパワーがない分,スピードは出ない。それにより,軽量ラケットや,柔らかく張った方が楽になるわけです。“と書かれていますが,最後の考察は,主観的な推測(先入観,思いこみ)であり,誤解を与える心配もあるので,コメントをさせていただきます。
 何故なら,この実験はプレーヤーが打撃した場合のストリング・テンションの影響を調べたものですが,プレーヤーによらずに,ラケット・ヘッドを固定した反発係数や,ラケットグリップを固定したり,自由にした場合のラケットの反発力の測定値についてもテンションの影響はないので,プロのプレーヤーも初心者も同様に,テンションを変えても打球速度は変わらないということになります。*
 したがって, 神和住純氏の考察にもありますように, テンションを変えた場合の違いは,「感触」,すなわち,ラケットの「弦楽器的な性能」*の違いということになります。
 また,次のような,テンションとインパクトにおけるショック(衝撃)に関する神和住純氏の興味深い推測(先入観)があります。
 抜粋・引用、
“ 初心者がいきなり70ポンドで張ったら,先ず,ボールは飛ばない。その代わり,手首,肘,腕,肩等にショックを与え,その結果,筋肉や関節を痛め,テニスエルボーにもなってしまう可能性が高くなる。”と書かれていますが,これは,先入観による誤解です。
(画像1,画像2)
 なぜならば,物理的な理屈でも,あるいはサービスやストロークで打撃した場合のラケット,手首関節,肘関節の衝撃・振動の測定結果でもテンションによる違いはないからです。
(画像3、画像4)
 ボールとラケットの衝突(インパクト)における衝突力(正確には力積)が,ラケットの反発力,あるいは打球速度をもたらし、また、その衝突力がグリップ部,手首関節,肘関節,肩関節に伝わるわけですから,テンションの違いによって打球速度に違いが無いということは,物理的に,手首,肘,腕,肩等に与えられるショック(衝撃)にもテンションの違いによる違いがないということになります。
(画像5~画像9)
 また,神和住純氏の報告書の末尾に下記のような考察がありますが,これが「テニスにおけるストリングテンションとサービス速度の考察」の結論でしょう!
 ラケット,ストリング選びの本質だと思います。大変興味深く,同感しました!(画像10)
 抜粋・引用、
“ 私の長いテニス歴から,今までにどのラケット素材がベストで,どのストリング数値がベストなのか,また,その結果がそのまま成績に繋がったかは,判断が難しい。
 ただ,その時代,時代に流行したラケット素材や形状を使用し,好きなストリングを自分の感覚で,しかも好みの数値で張り,ボールをコントロールしてきたという事,即ち道具の進化と共に,人間もその道具に敏感に対応できるという事がわかったのである。
画像1:研究者も抱きやすい「テンション」についての「先入観」

画像ー1

・ストリングの(張り上げ)テンションと打球速度(ボールの飛び)の関係
・手首・肘・腕・肩などに伝わるショック(衝撃)とテンションの関係
画像2:

画像-2

・ストリング・テンションとサービス速度(実験値)
;図は、ストリング・テンションを変えて、各テンションで5回試行したときの(試行者は神和住・元デ杯選手)サービス速度の測定値(神和住2006)をグラフ化したものです。
テンションの影響はほとんどなく、ばらつきの範囲に収まっています。
サービス速度は、ラケット・ヘッド(打点)速度と打点における反発力係数 e で決まります。
・ストリング・テンション(張り上がり)とボールの飛び(打球速度)の関係について、精度の高い測定器と言われている「トラックマン」を使った貴重な測定値です。
・ストリング・テンション(張り上がり)とボールの飛び(打球速度)の関係については、
フォアハンド(フラット)、
バックハンド(フラット)、
サーブ(フラット)
それぞれについて、40ポンド、50ポンド、60ポンドの場合の平均値の比較をグラフにしてみました。
・ボールの飛びは、どのショットでも、テンション 40ポンド、50ポンド、60ポンドには差がないことを示しています。
画像3:

画像ー3

フォアハンド・ストローク(フラット)でボールを打撃したときに手首関節(wrist)に伝わる衝撃と振動の実測波形です。
 ラケット面・先端側のオフセンタで打撃した場合なので、フレームの2節曲げ振動が顕著です。
 インパクトの衝突力波形の後に、残留振動として残っています。
 横軸は時間, 縦軸は加速度実測値で、衝撃・振動により手首に作用する力に相当します。
 衝撃力が作用する時間は、1000分の3秒程度。
 その後に続くのが、インパクトにより励起されたフレーム振動です。
 (参考までに:人間の瞬きは1000分の100秒程度です。)
 手首に伝わる衝撃・振動には、 ストリング面の膜としての振動モード(400~600Hz程度、張り上げテンションが高いほど、振動数も高い)は、減衰して、ほとんど見られません。
画像4:

画像ー4

手首関節の衝撃・振動加速度波形
:45ポンドと65ポンドの違いによる差はほとんどありません。
画像5:

画像ー5

 インパクトにおけるストリング・テンションは、ラケットの打点に換算した質量と打点の速度による運動量を、エネルギ・ロスなく、ボールに伝える役割をする。
画像6:

画像ー6

 インパクトにおけるテンションと張りあがりテンション
:インパクトにおけるテンションの大きさは、ヘッド速度(衝突速度)で決まる。
画像7:

画像ー7

 ラケット面上のショック(衝撃)の大きさは、衝突速度(ラケット・ヘッドの速さ)で決まる。
画像8:

画像ー8

 グリップ部の衝撃の大きさは、ラケット面上の衝撃の大きさで決まる。
画像9:

画像ー9

 インパクトにおける衝突力(衝撃Shock)が大きいほど,ボールは良く飛び,手首に伝わる衝撃(反力)も大きい。
画像10:

画像ー10

 (張り上げ)テンションの違いにより打球速度に違いが無いということは,手首関節に伝わるショック(衝撃)もテンションの影響はないことを意味します。
●(参考論文)
・テニスのパフォーマンスに与えるストリングスの物理的影響と心理的影響,
–アガシ選手のストリングスとパフォーマンスの関係をどう理解すべきかー,
 川副嘉彦,
 テニスの科学,日本テニス学会 ,第12巻, 2004, pp. 14~18.
・Experimental and theoretical criticism of the effectiveness of looser strings for the reduction of tennis elbow.
 Kawazoe, Y., Tanahashi, R. and Casolo, F.,
 Tennis Science & Technology 2, pp. 61-69. (2003). International Tennis Federation.
(参考記事)
・ゆるいガットはテニス肘防止になるか?
フォアハンド・ストロークにおける手首関節およびサービス・ストロークにおける肘関節の衝撃振動の測定
・ テニスラケットの科学(538)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(48) :ストリング・テンションとラケット性能① :誤解されやすいストリング面とボールの反発力(復原力)と変形挙動 | 川副研究室-KAWAZOE-LAB
・テニスラケットの科学(606)
:インパクトにおけるストリング・テンション(張力)の事実 :張り上げテンション(設定・初張力)ではなく、(インパクトでの)リアル・テンション(張力)がボールを弾く | 川副研究室-KAWAZOE-LAB
・テニスラケットの科学(607)
:テニスラケットの科学(289)の補足1:インパクトにおいて手首関節(wrist)に伝わる衝撃と振動の実測波形例
・テニスラケットの科学(608)
:打球感のメカニズム :インパクトの衝撃はどのように手に伝わるか① | 川副研究室-KAWAZOE-LAB
・テニスラケットの科学(609)
:打球感のメカニズム :インパクトの衝撃はどのように手に伝わるか② | 川副研究室-KAWAZOE-LAB
MENU
PAGE TOP