テニスラケットの科学(877):
(備忘録:解説記事 2009年) 
テニスのトライボロジー*(その5)  
スピンのメカニズムとストリング交差点潤滑による性能向上
*川副 嘉彦、スポーツとトライボロジー:テニスのトライボロジー,トライボロジスト / 日本トライボロジー学会編 54(7) 2009 , pp.452~457,巻頭口絵 p.1.
(注)トライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑) 


(続き)
4.スピンのメカニズムとストリング交差点潤滑による性能向上
 ボールに「食いつきの良い」ストリングスが存在することを多くのプレーヤーが経験的に認めていながら,現在数百種類も市販されているストリングスの種類・材料・ゲージ(素線直径)・張力などがどのようにスピンに影響するかは不明であった.
 ストリングスの摩擦が大きいほどスピンがかかるというのが従来の仮説であったが,
 最近,実際は逆に,摩擦が小さいほど縦糸と横糸が互いに滑って縦糸が横にずれやすいので,
 ボールがストリングスに食い込みやすく,
 また横に伸びた縦糸が元に戻るときの復原力によりスピンがかかりやすいことが高速ビデオ画像解析により明らかになった.
 図13は,ボールを打撃したときのテスターのトップスピン打法を示す.
 斜めから撮影した高速ビデオ画像(毎秒1万コマ)の一部であり,
(a)はインパクト直前,
(b)はボールとストリングスが接触している期間(約 3~4 ms),
(c)はボールがストリングス面から離れる瞬間
のフレームを示す.
 ボールとラケットが接触している間のラケット面の角度の変化はほとんどなく,この間のラケットによるスピン操作は不可能である.

画像ー1


:図13 トップスピン打撃(撮影:1万コマ/秒)
 インパクトでラケット面が真後ろになるように撮影したビデオ画像(1万コマ/秒)の代表的なフレーム(コマ写真)について,
(a) ストリングを張ってから1週間ほど毎日3時間使用したラケットの場合(使用後ストリングス)と
(b) 使用後ストリングス交差点に潤滑剤(シリコン系オイル)を塗った場合を比較すると,
 潤滑剤を塗った(b)の場合は,縦糸が直角方向へ大きくずれ,ボールが離れるときには元に戻っているのに対して,
 (a) の場合は,縦糸のズレが少なく,ボールが離れた後も縦糸がまだ一部横にずれたままになっている.
 図14は,トップスピン打撃(図13)における高速ビデオ画像解析結果である.
 ストリングスを張ってから1週間ほど毎日3時間使用したラケットの場合,新品のストリングスと比べるとスピン量は平均40%低減する.
 縦糸と横糸の交差点にノッチ(溝)ができて滑りにくくなるからである.
 ノッチのできたストリングスでも潤滑剤(国際特許)を塗るとスピン量は平均 30 % 回復し,接触時間は平均 16 % 長くなる.
 スピンの回復によって,打球速度は平均 6 % 低減する.

画像ー2


:図14 ストリングスとスピン性能(3回平均値と標準誤差)  
 図15は,ストリングの縦糸が横にずれやすくて戻りやすいほど,ボールの「食いつき」が良く,戻るときの復原力によりボールにスピンがかかる様子を示す.
 スピン量が多いとインパクトによる直接的な衝撃力も低減し,接触時間が長くなり,ラケットや手に伝わる衝撃振動も低減する.
 コントロール性とホールド感が増し,バウンド後のボールが高く跳ね上がるので,対戦相手は打ちづらい 2), 3). 

画像ー3

:図15 横にずれたストリング縦糸が元に戻るときの復原力によるスピン

(文献)
・川副 嘉彦、テニスのトライボロジー,トライボロジスト / 日本トライボロジー学会 編 54(7) 2009 pp.452~457.
https://kawazoe-lab.com/research/tribology-of-tennis/