テニスラケットの科学(883):
(備忘録:解説記事 2003年)
テニスラケットの素材・構造と性能*(その5)
3.感覚的性能評価とスポーツ工学による性能予測
3.4 ボールの飛びに関連するラケット性能
3.4.1 球離れの良さと反発係数
3.4.2 はじきの良さと反発力係数
3.4.3 ボールの飛びとラケットのパワー
*川副嘉彦,テニスラケットの素材・構造と性能,バイオメカニクス研究(日本バイオメカニクス学会誌),(特集:素材とスポーツ)、第7巻2号,(2003), pp. 136-151. ●
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(続き)
3.4 ボールの飛びに関連するラケット性能
3.4.1 球離れの良さと反発係数
感覚的な性能評価の一つに「玉離れが良い」,あるいは,これと反対の性質として「ボールのホールド感がある」という表現がある.
経験的には「厚ラケは玉離れが良い」と言われている.
しかし「玉離れが良い」というのは,物理的にはどういうことであろうか.
テニス専門誌などには,「玉離れが良い」のは「接触時間が短い」からだという記述がみられるが,この説明は正しくない.
なぜなら,厚ラケの特長であるフレームの高剛性は,「接触時間」にはほとんど影響しないからである.
一方,厚ラケのもうひとつの特長は「反発係数」が高いことである.
ボールとラケットの反発係数 e r は,インパクトにおけるエネルギー損失と密接に関係しているから,ボールの変形によるエネルギ損失およびラケット・フレームの振動によるエネルギー損失が少ないほど,反発係数が高いことになる.
「反発係数」が高いということは,ボールとラケットの両者がお互いに弾かれやすいということを意味する.
したがって,「玉離れが良い」ラケットは,「反発係数が高い」ラケット,「ホールド感がある」ラケットは「反発係数が低い」ラケットということになる.
したがって,厚ラケは「球離れ」が良く,木製ラケットは「ホールド感」があることになる.
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3.4.2 はじきの良さと反発力係数
一般には「ラケットの反発性能が良い」,「反発力がある」,「弾きが良い」といった性能評価が,ほぼ同じ意味で用いられている.
図14 は,宙づりの静止ラケット(ヘッド速度 V Ro = 0)にボールを衝突させたときのボールの跳ね返り速度 V B と入射速度 V Bo の比 e の実測値と予測値である.
この比 e の実測値が,メーカーなどではラケットの反発性能の評価によく使われる.
横軸はストリング面上の衝突位置である.
この係数 e は,衝突位置における反発係数 er,ラケットの換算質量 M r ,およびボールの質量 m により決まり,比 e の値が大きいほどボールの跳ね返りの良さ,あるいはラケットのはじきの良さを表す.
これを反発係数 er と区別して「反発力係数」 e と著者は定義している.
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画像ー1
図14 反発特性の実測値と予測値
「反発力がある」と「反発係数が高い」という表現が混同して使われることが多い.
「反発係数」が高いから「反発力がある」という説明がなされるが,「反発力がある」と「反発係数が高い」とは直接対応するものではない.
非常に軽い厚ラケのように反発係数が高くても,ボールの跳ね返りの悪いラケットもある.
「はじきの良いラケット」とは,ラケットを振らないでボールを当てただけのときにボールが良く跳ね返るラケットと考えたらわかりやすい.
ラケットを速く振らなくてもボールが良く飛ぶという意味である.
スイング速度が遅いプレーヤーにとって,あるいはボレーの(ネットの近くで相手のボールがバウンドする前に打つ)ときには,この反発性能が打球の速さに直接に影響する.
反発係数が高くて,(ストリング面上の)打点に換算したラケットの換算質量が大きいラケットほど,反発性能(跳ね返りの良さ)は高いことになる.
慣性モーメントが大きくて,打点とバランス位置(重心)の距離が近いほど,ラケットの換算質量は大きい.
したがって,反発性能は,ラケット面の根元側ほど高く,長手方向の中心線から横に外れるほど小さくなる.
フェイス面積の大きいデカラケは,ラケット面中心位置をバランス(重心)位置に近づけることにより,反発力を増したラケットと言える.
グリップを手で握ったときの反発力係数の値は,極端なオフセンター打撃を除くと,宙づりラケットの場合と大きな違いはない.

画像ー2
反発力係数は反発係数と換算質量で決まる
3.4.3 ボールの飛びとラケットのパワー

画像ー3
反発力係数と打球速度の関係
一般に反発力係数の高いラケットはヘッドの速さが遅く、反発力係数の低いラケットはヘッドの速さが速い.
したがって,ボールの飛びは「反発力係数」と「振りやすさ」の両者のかね合いで決まる.

画像ー4
(補足)打球速度のメカニズム

画像ー5
(補足)弦楽器としての主観的・感覚的性能と客観的・打撃用具としての性能
打具としての性能はそれを受ける相手プレーヤーに直接に影響するもの、弦楽器としての性能は打撃するプレーヤー自身が感じる主観的なもので、プレーには間接的に影響するもの,と言うこともできます。
(引用文献)
・川副嘉彦,テニスラケットの素材・構造と性能,バイオメカニクス研究(日本バイオメカニクス学会誌),(特集:素材とスポーツ)、第7巻2号,(2003), pp.136-151.
https://kawazoe-lab.com/research/tenisutakettonosozai/
(続く)
