テニスラケットの科学(41) 「スパゲッティ・ストリング」とスピン:ITF: ポリ系ストリングは,現時点では,「スパゲッティ・ストリング」のスピンには到底及ばない!
「スパゲッティ・ラケット」を使って、ランキング200位の選手が4位の選手を破ったこと、全米・全仏・全豪で優勝したビラス選手がスパゲッティ・ラケットを使っていたナスターゼ選手との決勝で途中棄権したことなどから、論争が起こり、1978年に ITF はその使用を禁止したという歴史があります。
ルールが改正され、縦糸と横糸が交互に織られていないラケットは、ルール違反になりました。(川副ら2005, 2006)
図(a)、(b)が「スパゲッティ・ラケット」の例です。
グロメット穴に2本ずつ縦糸各16本を通して、さらにそれぞれをプラスティックの中空ローラーを通して太い横糸(5本)を両面からはさむ形(3面)に張っています。
ラケット・ヘッドを固定して、ボールをストリング面に斜め衝突させて、S Goodwillと S Haake は、ITF の協力を得て、スピンの測定を行いました。(40ポンド、70ポンドのナイロン、天然ガットとの比較)
その結果が図(c) です。
通常のストリングに比べてスピン量が約2倍に増すことを示しています。
ローラーがベアリングのように動いて縦糸が横糸面上で滑りやすくなります。ただし、入射ボールは、バックスピンです。
また,図(c)は、シンセティック 40 lbs と 70 lbs および天然ガット 40 lbs と 70 lbs の計4種類のストリングスのスピン量の差はほとんど無く、バラツキの範囲であることを示しています。
したがって,スピン増大は縦糸と横糸が滑りやすいことが原因ということになります。
(川副ら2005,2006)、(Goodwill, S & Haake, S., Why were ‘spaghetti string’ rackets banned in the game of tennis?, The engineering of Sport 4, Blackwell Science, 2002)
* テニスのインパクト実験において、ある程度のばらつきがあるのは、実験装置の未熟さではなく、大変形の非線形力学の本質的なものです。スポーツは非線形の世界(複雑系、カオス現象)です。
ボールとストリング面との衝突において、ストリング・メッシュとの微妙なひっかかり具合によって、スピン量が微妙に変わります。スピン量が変わると、衝突後の直線速度も微妙に変わることになります。フラットな衝突でも、多少はスピンがかかっていますので、衝突後の速度も、多少は、ばらつきます。
*たとえば、ストリング・テンションの影響について、これまで、しばしば、真逆のことが言われてきたりしたのは、木を見て森を見ず?という表現が適切かどうかわかりませんが、細かく見すぎて(目盛りを拡大しすぎて)、バラツキの範囲のなかで議論されてきたからだろう?と思います。
* 複雑系、カオス現象:蝶がはばたく程度の非常に小さな撹乱でも遠くの場所の気象に影響を与えるという「バタフライ効果(butterfly effect)」という標語的表現がよく知られていますが、力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の系の状態が大きく異なってしまうという現象です。
1-画像a:「スパゲッティ・ラケット」の例(構造イラスト)
2-画像b:「スパゲッティ・ラケット」の例(写真)
3-画像c:ラケット・ヘッドを固定して、ボールをストリング面に斜め衝突させた実験結果(40ポンド、70ポンドのナイロン、天然ガットとの比較)