テニスラケットの科学(209)
:スピンとストリング(7)
: プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション
: ストリングを弱く張っても、インパクトでのボールの変形は小さくならない
図は、(張り上がり)テンションの違いによるインパクトでのボールの変形量(つぶれ)の差を、ボールとラケットの衝突速度との関係で調べたシミュレーション結果です。(テニスラケットの科学(208)参照)
衝突速度が上がるにつれて、変形量が大きくなるという傾向は、ストリング面の場合と同じですが、ボールの場合は、ストリングの(張り上がり)テンションの違いによる変形量の差はほとんど見られません。
したがって、ボールの変形による(つぶれることによる)エネルギー・ロスの差は、(張り上がり)テンションの違いによっては表れないことになります。
インパクトにおけるストリング面の変形によるエネルギ・ロスはほとんどないので(素材や太さ、テンションなどの違いにかかわらず、すべてが5%程度、鉄球との反発係数は0.97)、ボールの変形量が小さいほどボールとストリングの反発係数は高いことになりますが、(張り上がり)テンションが違ってもボールの変形量に違いがないので、反発係数も違いがないことになります。
また、(張り上がり)テンションが違っても、インパクトにおけるストリング面の硬さ(いわゆる面圧)にほとんど違いがないことを意味しています。
ストリング面は、たわみが大きいほど硬くなり、弱く張ったストリング面はその分たわみが大きいので硬くなるからです。
(参考文献)
・ Yoshihiko KAWAZOE, Effects of String Pre-tension on Impact between Ball and Racket in Tennis,
Theoretical and Applied Mechanics, Vol.43(1994), pp.223-232.
・ 川副嘉彦、ラケットの科学II-⑦ ストリングス・テンションはインパクトにどう影響するか、
月刊テニスジャーナル,13巻3号(1994.3), pp.80-85.