テニスラケットの科学(332) :テニスラケットの性能設計⑤: テニスラケットの力学 :ストリング面の打点位置に換算した質量(重量)とは何か(5) 軽量型と従来型ラケットの「ラケット面中心換算重量」

● 換算質量(換算重量)は、①総重量、②重心(バランス)、➂スイングウェイトの3つのカタログ値から算出することができます。
 「反発力」と「振りやすさ」を一つのパラメターで評価することができます。
● ラケット面中心換算重量
 「ラケット面中心換算重量」(一般には換算質量という)は、ボールがストリング面中心に衝突するときに、ボールが感じるラケットの重量と考えるとわかりやすいと思います。
 つまり、換算重量が200gなら、ボールは200gの物体と正面衝突したことと同じになるわけです。
 もちろん、ボールは衝突する相手が重いほど強く反発されるので、(体重50キロの女性と大相撲の巨漢・小錦に体当たりするときの違いを想像してください!)、換算重量が大きい場所ほど、そこで打ったときの反発力が高いことになります。
 ストリング面(ラケット面)中心では、総重量 290グラムの軽量型は 175グラム、総重量 370グラムの従来重量型は 196グラムだから、従来重量バランス型の方が反発性が良いということになります。
 さらに、「換算重量」が大きいと、インパクトでのラケット面のブレも小さいため、これは重要な情報と言えます。
 この値をカタログに載せてくれるとラケット選びには大変都合がいいのですが、現実にはなかなか実現しません。
 この換算重量は、図1に示すように、ラケット面のどの打点で打つかによっても値が異なります。
 通常は、「重心周りの慣性モーメント」が大きいほど、また「バランス」の値が大きい(重心位置が打点に近い)ほど、「打点に換算した換算重量」は大きくなります。
 図1~3で、今回取り上げた2本の換算重量の分布を比較したので、参考にしてほしいと思います。
 図1は、ラケット面の長手軸上の打点における「換算重量」を示しています。
 (a)は、軽量型の場合、(b)は従来重量バランス型の場合です。
 ○の線は宙づりしたラケット(ラケット単体)にボールが衝突した場合、●の線はラケットのグリップ端から 70ミリの位置を手で支えたラケットにボールが衝突する場合です。
 両ラケットとも「換算重量」は先端側で小さく、根元側で大きいことを示しています。
 手で持つことの影響は、軽量の極端な根元でやや大きく、 30グラムぐらいありますが、ストリング面中心近くではプレイヤーの腕の重さによる影響はほとんどないことがわかります。
 つまり、通常の打点では、プレイヤーの体重はほとんど反発力に影響しないことになります。
* 質量は重力に無関係、地球でも火星でも同じ。
  重量は重力に関係、厳密には海岸と山頂では異なります。
  体重は、火星では地球での1/3、月では約6分の1になります。
 図2は、 腕の影響を無視して、宙づりしたラケットにボールが衝突するときの2種類のラケットの「換算重量」を比較したもの。
 (a)はラケット面長手軸上の打点。
 (b)は打点が横方向にズレた場合で、上からラケット面上の先端側打点Bから横に外れた打点。中心Dから横に外れた打点。根元側Fから横に外れた打点での換算重量を示している。
 軽量型ラケットは根元側の横のオフセンター打撃で、ラケットが長手軸まわりに回ってしまいやすいことがわかります。
 図3は、打点に換算した換算重量を等高線状に示した図。
 軽量型は、従来重量バランス型と比べて、先端側を除いて、どの打点でも換算重量が小さくなっている。
 ラケット面中心付近では約20グラムの差があるという結果が出ています。

図1

図2

図3

図4