テニスラケットの科学(545)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(53)
:ポリエステルとナイロンを組み合わせるハイブリッドのメリットとデメリットの解説に誤解があるようです!
:誤解の多いストリング面の反発力(インパクトにおけるテンション)とスピン量のメカニズム
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” 「硬いポリエステル」と「柔らかいナイロン」を組合せるハイブリッドのメリットとデメリット<SMASH> ”*には、事実についての誤解と個人的な主観が混在していて、読者に混乱を与える心配があります!
* 【テニスストリング基礎知識】「硬いポリエステル」と「柔らかいナイロン」を組合せるハイブリッドのメリットとデメリット
<SMASH> | THE DIGEST (thedigestweb.com) 2023.05.13 ※2023年4月号より抜粋・再編集 (川副コメント:3月号の間違いでは?)
https://thedigestweb.com/tennis/detail/id=68165… (図1)
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・ ストリングには、インパクト後に残る振動や音色を楽しむという弦楽器としての性能と打具としての性能の両面があります。
弦楽器としての性能については、好みはユーザーそれぞれが自分で感じるもので、一般的な解説の必要はないと思います。低い声が好きな人もいれば高い声が好きな人もいるのと同じでしょう!
しかし、打具としてのストリング面の性能は、測定できるもので、正しく測定すれば、だれが測定しても客観的に同じ結果がでますし、物理的な説明もできますし、だれが説明しても同じです。
ストリング面の役割は、織られた縦糸と横糸が膜のように一体になって、インパクトでのテンションSを、反発力の成分(復原力F)として、ボールを跳ね返すこと、すなわちボールを跳ね返す反発力の生成です! (図2)
・ 図2は、ストリング面の縦の中心線で切った断面の模式図で、ボールがストリング面の中心で衝突した場合の模式図です。
ストリング面の縦の中心線上から横に外れた場合はストリングの両端の取り付け位置の距離が短くなるだけで、力の働き方は同じです。
● ラケット・ストリング面の反発力のメカニズム
・ストリングの張り上がりテンション(So)、太さ(直径A)、素材の硬さ(ヤング率E)、たわみ量Xが大きいほど、復原力F、したがって、反発力は大きくなります。
・ ポリエステルは、 ナイロンやナチュラルに比べて、素材の硬さ(ヤング率E)は大きいので、反発力は大きいですが、たわみ量が少ないので、結果としては、打球したときの反発力、したがって、ボールの飛びは、(常用の衝突速度の範囲では)ナイロンとほとんど変わらなくなります。
・ この反発力、あるいはボールの飛びは,ストリング面の打球位置が同じなら、ボールとラケット・ヘッドの衝突速度でほぼ決まります。
(厳密には、インパクトにおけるボールの変形やフレームの振動などによるエネルギ損失を反発係数という形で考慮します。)
● インパクトにおけるスピン量と打球速度(ボールの飛び)の基本的な割合は、図3、図4の説明のようになります。
・ スイング軌道とラケット・フェイス面の傾きが同じなら、ボールとラケットヘッドの衝突速度が大きいほど、スピン量も打球速度も増大します。
・ ポリエステルのスナップバック効果は、これらの基本的な生成原理に加えて、さらにスピン量が増すということです。
● ストリング素材(ナイロンとポリエステル)を変えても、インパクト後に手に伝わる衝撃振動がほとんど変わらないのはなぜか?
(図5,図6参照)
・ 図5は、インパクトにおいて励起される振動モード(変形の形)
:a が主振動(1次)、振幅大、a, b, c, d の順で右側ほど振動数・音が高い
:白と黒の境界線が振動の節、振動の節の振幅はゼロ。
節にボールが当たるとその振動は励起されません
:変形をわかりやすくするために振幅を拡大して表示しています。
・ ラケットの構造上、
ストリング面の振動モード(振動の様式・形) は、ストリング面の中心が腹(振幅が最大)、周辺のフレームに接する部分が節(振幅最小、振動しない)に当たります。
したがって、図6(側面図)のように、フレームのハンドル上の手の握りの位置(グリップ)にはほとんど振動が伝わらないことになります。
(まさに、ラケットは神の発明品:経験の産物です!)
(追記)
● ハイブリッド・ストリングの性能について
・(実験したことはありませんが、)一般的には、縦糸・横糸が、
ポリエステル・ポリエステル、 ポリエステル・ナチュラル、 ポリエステル・ナイロン、ナイロン・ナイロンの場合、
物理的には、同じ状況であれば、ボールの飛びもスピン量も大きくは違いませんが、
たとえば、新しいストリングで、ポリエステル・ポリエステルのスナップバック効果が大きくてスピン量が増大するような場合は、
(エネルギ・バランス的に)打球速度はやや低減し、接触時間はやや長いということになります。
・傾向としては、ポリエステル・ポリエステル、 ポリエステル・ナチュラル、 ポリエステル・ナイロン、ナイロン・ナイロンの順で、スピン量がやや大きく、打球速度がやや落ちるということになりますね。
ポリエステル・ポリエステルが最もスピン量が大きく、打球速度が落ちる傾向にあり、
ナイロン・ナイロンが最も打球速度が速く、スピン量が少ないという傾向になります。
・ インパクトの速度が速いプロの場合は打球速度もスピン量も大きく、縦糸・横糸の素材の組み合わせの違いが大きくなりますが、インパクトの速度が遅い場合は、縦糸・横糸の素材の組み合わせの影響はあまり大きくはないと思います。
インパクトの速度が速くないとスピン量も増加しないので、スイングの技術の方が影響が大きいのではないでしょうか?
フェデラー選手は確か、(昔?)縦・ナチュラル、横・ポリエステル(めずらしい?)だったと思いますが、ナダルほどではなくても、十分なボールの飛びとスピン量を確保していましたね!