テニスラケットの科学(814)
:研究者も誤解しやすい「ストリング・テンション」
:最新(2025年)の「テンションとラケット性能に関する学術論文*」の結論に「異見あり!」
:(例)ボールとラケットの反発係数が低い方が、ラケットの反発力(係数)、パワー(打球速度)が大きい例
:from慶應義塾大学 総合政策・環境情報学部講義「スポーツエンジニアリング」 (ゲストスピーカー 川副嘉彦) 2025年12月5日(金)、9時25分~10時55分
*THE IMPACT OF RACKET STRING TENSION ON TENNIS RACKET PERFORMANCE, Mingshun JIA , Xiaobin LAN, Tao ZHUANG, Bo SUN,
Journal of Theoretical and Applied Mechanics(JTAM),Vol. 63, No.4, pp. 855–864, 2025.
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最新(2025年)の「テンションとラケット性能に関する学術論文*」の結論には、“テンションとラケット性能”というテーマに対して“ストリング張力が低いほど、反発係数(COR)および反発速度は高くなる。”と書かれていますが、「異見あり!」です.
なぜならば、35ポンド~70ポンドについての実験結果は、ストリング面の反発係数の大きい順は、40ポンドが最大、次が35ポンド、45ポンドと65ポンド、55ポンドと、ばらついていることもありますが、「反発係数が高いからと言って、反発力(係数)や反発速度が高いとは言えない」からです.
この論文*で反発速度と表現されているのは、ストリング面の反発力によるもので、ラケットの反発速度、あるいは反発力(係数)とは別物です.
(参考までに)
・ テニスボールの反発係数(剛体壁との衝突)は、衝突速度の増大とともに、反比例して低減する.0.65(時速40 kmの時) ~ 0.50(時速80 kmの時).From テニスラケットの科学(15) https://kawazoe-lab.com/tenn…/science-of-tennis-racket-15/
・ストリング面の反発係数は、 0.97 程度(変形しない鉄球との衝突におけるストリング面の変形によるエネルギ損失はゼロに近く、完全弾性に近い).
From テニスラケットの科学(204) https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-204/ 、
*1:Rod Cross and Crawford Lindsey, “ Technical Tennis”, Racquet Tech publishing (USRSA: United States Racquet Stringers Association), (2005), p.75.
*2:Lindsey, C., “ New Technologies and Racquet Power”, Coaching & Sport Science Review, 45 , ITF (International Tennis Federation), (2008), pp.13-14.
・ ラケットの反発係数は、ストリング面中心付近で 0.80 程度(0.97 からの低下は、テニスボールのエネルギ損失とフレーム振動によるエネルギ損失).反発係数は振動の大きくなるオフセンター打撃ほど低くなる.
ボールとラケットの反発係数が低い方が、ラケットの反発力(係数)、パワー(打球速度)が大きい例を紹介させていただきます.
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最新(2025年)の「テンションとラケット性能」に関する学術論文*の結論「」に「異見あり!」
ボールとストリング面(ストリング・ベッド)の反発係数が高いラケットでも、ラケットの反発性能が高いとは言えない具体例
(例)ラケットのフェース面積 100 in2 110 in2 120 in2 のラケットの反発係数、反発力係数、打球速度の比較 (川副研究室のシミュレーション結果より)
*THE IMPACT OF RACKET STRING TENSION ON TENNIS RACKET PERFORMANCE, Mingshun JIA , Xiaobin LAN, Tao ZHUANG, Bo SUN, Journal of Theoretical and Applied Mechanics(JTAM),Vol. 63, No.4, pp. 855–864, 2025.
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(張り上げ)テンションと打球速度(ボールの飛び)の関係
:「打球速度(ボールの飛び)」は、「飛来するボールの速度」、「ラケットの反発力係数」、「インパクトの直前のラケットヘッド速度」で決まります.
なお、「ラケットの反発力係数」は、「ボールとラケットの反発係数」と「打点に換算したラケットの質量」で決まります.
飛来するボールを跳ね返す割合ですから、弾き飛ばされないための換算質量(重量)が大きく影響します.
ヘッドを固定すれば(質量が無限大),ストリング面に衝突したボールは約8割の速度で跳ね返りますが、ラケットに衝突したボールは、ラケット面中心で約4割、先端側で約2割、根元側で約5割の速度で跳ね返ります.
ボールとラケットの反発係数が多少違っても、反発力係数にはほとんど影響しません.
ボールの質量とラケットの換算質量の比が大きく影響します.
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ラケットの反発力係数と反発係数、ラケットの換算質量、ボールの質量の関係式、および
打球速度と飛来するボール速度、反発力係数、打点位置のラケットヘッド速度の関係式を示しています.
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ストリング・テンションとサービス速度(実験値)
;図は、ストリング・テンションを変えて、各テンションで5回試行したときの(試行者は神和住・元デ杯選手)サービス速度の測定値(神和住2006)をグラフ化したものです。
テンションの影響はほとんどなく、ばらつきの範囲に収まっています。
サービス速度は、ラケット・ヘッド(打点)速度と打点における反発力係数 e で決まります。
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ストリング・テンション(張り上がり)とボールの飛び(打球速度)の関係について、精度の高い測定器と言われている「トラックマン」を使った貴重な測定値です。
・ストリング・テンション(張り上がり)とボールの飛び(打球速度)の関係については、
フォアハンド(フラット)、
バックハンド(フラット)、
サーブ(フラット)
それぞれについて、40ポンド、50ポンド、60ポンドの場合の平均値の比較をグラフにしてみました。
・ボールの飛びは、どのショットでも、テンション 40ポンド、50ポンド、60ポンドには差がないことを示しています。
(参考記事)
テニスラケットの科学(538) https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-538/
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最近の軽量トップヘビー(グリップライト)ラケットは、反発係数が低い方が、反発力(係数)が大きく、打球速度が速くなります.
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ストリングを張った重量が約290グラムのラケット3種、ノーマル100 in 2、デカラケ 110 in 2, 超デカラケ120 in 2 について、反発係数と反発力を比較しました.(コンピューター・シミュレーション、川副研究室)
反発係数は、フェース面積が小さい方が高く、反発力はフェース面積が大きい方が高くなります.
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テニスボールとラケット3種の反発係数(シミュレーション、川副研究室)、横軸はストリング面・縦の中心線上の打点位置.
オフセンターで反発係数が低下するのは、フレームの振動によるエネルギー損失によります.
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テニスボールとラケット3種の反発力係数(シミュレーション、川副研究室)、横軸はストリング面・縦の中心線上の打点位置.
ストリング面上の打点に換算した質量(重量)の大きさが大きく影響します。
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スイングモデルを与えてテニスボールを打撃したときのラケット3種による打球速度(シミュレーション、川副研究室)、横軸はストリング面・縦の中心線上の打点位置.
打球速度は、ストリング面上の打点の換算質量(重量)と速度、すなわち、「運動量」で決まります。
反発係数が最も高いラケット100 in 2 の打球速度は最も遅くなっています.
したがって、反発係数が高いからラケットの反発力、反発速度(パワー)、反発性能が大きいわけではありません.
また、(張り上げ)テンションが低いから反発性能が高いわけでもありません.
