テニスラケットの科学(538)
:テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(48)
:ストリング・テンションとラケット性能①
:誤解されやすいストリング面とボールの反発力(復原力)と変形挙動

● テニス雑誌「スマッシュ」2020年11月号81頁「ストリングの基礎知識」に、読者(テニス歴2年、30歳女性、週1回スクールに通っている初心者)からの質問
「Q:現在張っているストリングが自分にあっているのかわかりません。何を基準に考えればいいですか?」
が掲載されています。
 この質問に対するスマッシュ誌・ストリンガーさんの回答(A)に「異見あり!」です。
 ・まず、「テンションの強さ」についてということで、テンションが高いとボールが飛びにくいというスマシュ誌・ストリンガーさんの回答(A)は、理論的・実験的に根拠がなく、テンションの高低はボールの飛びに影響しないというデータは数多くあります。
 さらに、
・力を抜いてゆっくりとラリーをした時、ボールがサービスラインの1メートルから1.5メートル後ろに落ちていたら、テンションは適正と言えるでしょうという回答(A)は、何の根拠もなく不適切で無責任な回答ではないでしょうか?
さらに、
・もしボールが浅い場合には、少しテンションを低く、深い場合には高く、調整の目安として、3ポンドほど変化を加えてみると、違いがわかりやすくなりますという回答(A)も不適切で、拝読したときには無責任な回答にビックリしました!
● 参考までに
・ 図1は、ストリング・テンション(張り上がり)とボールの飛び(打球速度)の関係を紹介させていただきます。
 ストリング・テンション(張り上がり)とボールの飛び(打球速度)の関係について、精度の高い測定器と言われている「トラックマン」を使った貴重な測定値です。
・ストリング・テンション(張り上がり)とボールの飛び(打球速度)の関係については、
フォアハンド(フラット)、
バックハンド(フラット)、
サーブ(フラット)
それぞれについて、40ポンド、50ポンド、60ポンドの場合の平均値の比較をグラフにしてみました。
・ボールの飛びは、どのショットでも、テンション 40ポンド、50ポンド、60ポンドには差がないことを示しています。

図ー1

(参考資料)テニスラケットの科学(467)
:テニスラケットの科学(325)*の補足3
:トラックマンによる測定例(参考データ)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-467/

● 図2~図5は、(張り上がり)テンションの違いによるインパクト挙動のコンピュータ・シミュレーション結果です。
・図2は、(張り上がり)テンションの違いによるインパクトでのストリング面の最大変形量を、ボールとラケット・ヘッドの衝突速度との関係で調べたシミュレーション結果です。
 どの衝突速度でも、(張り上がり)テンション(初期設定)が低いほど、インパクトでのストリング面の変形量が大きくなります。

図―2

・図3は、(張り上がり)テンションの違いによるインパクトでのボールの最大変形量(つぶれ)の差を、ボールとラケット・ヘッドの衝突速度との関係で調べたシミュレーション結果です。
 ボールの場合は、ストリングの(張り上がり)テンションの違いによる変形量の差はほとんどありません。
 ボールとストリングの反発係数は、ほとんどボールのエネルギ損失で決まるので、ボールの変形量が(張り上がり)テンションの影響を受けないということは、(張り上がり)テンションが異なっても反発係数が変わらないということを意味します。

図ー3

・図4は、(張り上がり)テンションを 39 ポンド~77ポンドまで変えた場合の、ストリング面の反発力(復原力)の結果です。
 (張り上がり)テンションが低くても変形量が大きいので、インパクトでの(リアル)テンション(復原力)が増して、高い場合との違いがなくなります。

図―4

・図5は、(張り上がり)テンションと接触時間の関係を示すシミュレーション結果です。
 衝突速度が大きいほど、すなわちボールとストリング面のたわみ変形が大きいほど、ボールとストリング面が硬くなるので、接触時間は短くなって、インパクトでの変形は急速に復原します。
 衝突速度が小さい領域(この例では 15m/秒=時速50キロ以下)では、(張り上がり)テンションが低いほど接触時間は長いですが、テニスの実用範囲領域 20m/秒(時速72キロ)以上では、(張り上がり)テンションの影響はほとんどありません。

図―5

テニスラケットの科学(538)の補足1

(参考資料)
・テニスラケットの科学(208)
:スピンとストリング(6) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :ストリンガーはラケットという「弦楽器」の性能を熟知している「調律師」(名張人)
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-208/

・テニスラケットの科学(209)
:スピンとストリング(7) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション : ストリングを弱く張っても、インパクトでのボールの変形は小さくならない
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-209/

・テニスラケットの科学(210)
:スピンとストリング (8) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション : (張り上がり)テンションが低いほど「接触時間」が長いのは衝突速度がごく低い領域だけ、実用範囲では(張り上がり)テンションの影響はほとんどない
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-210/

・テニスラケットの科学(213)
:スピンとストリング(11) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :ボールとラケットの衝突力とストリング面の変形量
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-213/