テニスラケットの科学(863):
(備忘録;解説記事 2003年)
材料が変えてきた用具とパフォーマンス
-テニスを例にして-*(その2)
Tennis Equipment and Performance
-Transformation Through Material Evolution –
*川副嘉彦,日本機械学会誌,第106巻,1010号 (2003), pp. 13-15.


3 誤解されているボールとストリングスの性能
 ボールとストリングスの性質について少し述べたい.
テニスボールと剛壁の反発係数は,衝突速度の増大とともにかなり低下する.
 衝突速度20 m/sでは 0.48程度である.
 一方,ラケット・ヘッドを固定して,ストリング面(中心)にボールを衝突させたときの反発係数は衝突速度14 ~25 m/s の範囲ではほぼ0.83程度であり,ボールの入射速度,ストリングスの種類やテンションにあまり依存せず,反発係数は高い値を示す.
 鉄のボールをストリングスに衝突させたときの反発係数は完全弾性衝突に近い.**
 **2026年8月5日追記:ストリング面の反発係数は 約 0.97 ,
インパクトにおけるストリング面の急速(3/1000秒)変形によるエネルギ損失はゼロに近い.
 インパクトにおいてストリング面の剛性(面圧と呼ばれている)が,幾何学的非線形性により衝突速度が大きいほど,硬化して接触時間が短くなることにより,ボールの硬化バネ特性もあって,ボールの変形による散逸エネルギー増大を防いでいる!
 このストリングスの優れた弾性によって楽にボールが打てるのである.

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 「ストリングスを緩く張ると,ボールがよく飛ぶ」と言われる.
 しかし,実験結果によると,衝突速度20m/s の場合,テンションを 44 % 増減しても,反発係数は1.4 %しか増減しない.
 衝突速度30 m/s の場合はテンションを変えても反発係数はほとんど変わらない.
 プレイにおける衝突速度は 20~30 m/s 程度,最高速度サーバーのヘッド速度は40 m/s程度である.
 反発係数におよぼすテンションの影響は非常に小さいのである.
 理論的にも説明できる.

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 「ストリングスを緩く張るとテニス肘防止になる」と言われる.
 ストリングスの「面圧」(たわみ剛性)は衝突速度(たわみ量)に比例して高くなり,衝突速度により10倍近く変化する.
 面圧がテンションに左右されるのは,衝突速度がきわめて小さい場合である.
 「テンションが低いほどインパクト・タイム(ボールとストリングスの接触時間)が長い」と言われる.
 米国の著名なテニス専門書に載っている12 m/s以下のデータはそうなっている.
 しかし,衝突速度が20 m/sを超えるとテンションの差の影響はほとんどなくなり,むしろ,わずかであるが逆転する.
 理論的にも説明できる.
 テンション 45 lbs と65 lbsの場合のサーブにおけるラケット・ハンドルの衝撃振動の実測波形は,ゆるいテンションの衝撃振動の方がやや大きい場合もあるということを示した.

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 ストリングスのスピン(ボールの回転)への影響については,テンションを変えた実験はデータのばらつきの方が大きい.
 衝突速度にほぼ比例してボールの回転数は増す.
**(注:2026年8月5日追記):
 この記事を書いた2003年当時は,「摩擦が大きいストリングスほど回転数が増す」とテニス雑誌やメーカーの宣伝文句では言われていましたが,実際のインパクトに近い速度で実験をやると,摩擦のスピンに及ぼす影響は見られませんでした.
 スピンガットと呼ばれる摩擦の大きいストリングは,スピンがかかりにくいという選手の声もあり,世界のトップ選手のほとんどが2000年頃からすでに摩擦の少ないポリエステルを使っていたので,スピンの時代とも言われていましたが,スピンのメカニズムは謎でした.
 従来の常識と異なって,ポリエステルのような摩擦の小さいストリング素材ほど,逆に,スピンがかかりやすいということが理論的・実験的に明らかになったのは,2005年以降です.
 ITF(国際テニス連盟)もポリエステルとナチュラルとナイロンについてのスピン実験を実施し,摩擦の小さいストリング素材ほど,スピンがかかりやすく,ポリエステルがナチュラルよりもスピンがかかりやすいことを公表しました.
 現在では,ポリエステルがナチュラルやナイロンよりもスピンがかかりやすいことは常識になっているようです.

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(文献)
  
https://kawazoe-lab.com/research/zairyougakaetekita-2/