テニスラケットの科学(865):
(備忘録;解説記事 2003年)
材料が変えてきた用具とパフォーマンス
-テニスを例にして-*(その4)
Tennis Equipment and Performance
-Transformation Through Material Evolution –
*川副嘉彦,日本機械学会誌,第106巻,1010号 (2003), pp.13-15.


 5  スポーツ用具と選手のマッチング
 超デカラケに超ハイ・テンションでストリングスを張ったモニカ・セレス選手のラケット(SRQ1000)が数年前に話題になったことがある.
 フェィス面積130 in2,全長28.5 inというレギュレーションの限界値に近い大きなラケットにテンション90 lbsという限界の強さで張ったラケットである.
 若手のパワーテニス台頭に対抗するために彼女が経験から選んだラケットであった.
 新しい材料の開発がこのような大きなラケットの実現を可能にしたのである.
 なぜ彼女がこのラケットを選んだかという理由は,次のように説明できる.
 フェィス面の大きさはラケットの反発性を重視したためであり,ストリングスの超ハイ・テンションは超デカラケの打球感の悪さとコントロール性の弱点をカバーするためである.
 彼女の強打を考えると,強度的に厚ラケ(約30 mm)にならざるを得ない.
 また,デカラケの操作性の悪さは250 g という軽量化によってカバーされ,ヘッド速度が落ちるというデカラケの弱点は,軽量化と長ラケ化によってカバーされている.
 しかし,彼女はこの大きなラケットの使用をまもなくやめた.
 その理由は説明されていないが,重量バランスとスイング・ウェイトがやや小さめで反発性が十分でないこと,さらに,軽量の超デカラケは手に伝わる衝撃振動が大きいことが考えられる.

 6  用具が進歩するほど人間の要素が大きくなる
 プレイヤーは用具の小さな変化をきわめて敏感にセンスする.
 これが,メンタル的にプレイヤーに大きな影響を与え,パフォーマンス向上のトリガーになっているように筆者には見える.
 用具のわずかな進歩がプレイヤーを大きく進化させるのである.
 たとえば,ストリングスが打球に与える直接的な影響は小さくても,ストリングスが変わると,たわみ挙動,残留振動,打球音などに影響する.
 これが,プレイヤー,特にトップ・プロのパフォーマンスにはかなり影響するようである.
 メンタルな部分のスポーツ工学についてはほとんどわかっていない.
 ●
(おわりに)
 テニスの基本ができていない中高年の一般プレイヤーでも軽量化のおかげでラケットを容易に振り回せるようになった.
 しかし,世界のトップ・プロは,ラケットを自在に操作することにより,パフォーマンスをさらに向上させる.
 ラケットの進歩を十分に活かす体力・技術があるからである.
 45歳を過ぎてから,筆者はシニアのダブルスに徹している.
 けがをしないで末永くテニスを楽しむためである.
 目標は省エネ・テニスである.
 に打たれたボールと頭上にあげられたボールの処理をできるだけ練習して,遅いサーブで時間を稼いでネットにでて,なんとかコートの半ばまでたどり着く.
 レシーブもできるだけ緩いボールを沈めてネットにつく.
 ここは安住の地である.
 若者の強打に対してはボレーが楽である.
 若者のエネルギを利用することができる.
 このようなプレイに向いているのは最新の軽量ラケットではない.
 張り上がり重量 365 g,重量バランス 325 mm,グリップ周りの慣性モーメント 41 g.m2,フェィス面積 110 in2がベストである.
 スイング・ウェイトが大きくてヘッド速度は遅い.
 しかし,反発性能は抜群である.
 ラケット面を早めに準備するだけでボールが飛んでいく.
 相手のボールが速いほど,鋭いボールが返っていく.
 スマッシュもラケットの重量を利用することができる.
 体力の占める割合が少ないのである.
 シニアのダブルスには軽すぎるラケットは向いていない.*

    文献(さらに興味のある人のために)
(1) 川副嘉彦,テニスにおける衝突現象の解析とラケットの性能予測・評価,計測と制御,38-4(1999), 268-273.
(2) 川副嘉彦,ラケットの科学,月刊テニスジャーナル,第10巻7号~11号, (1991), 130-135.
(3) 川副嘉彦,ラケットの科学Ⅱ,月刊テニスジャーナル,第12巻8号(1993)~13巻3号 (1994), 101-106.
(4) 川副嘉彦,新テニスの科学,月刊テニスジャーナル,第20巻3号~6号,(2001), 54-58.

(追記:2026年8月5日)
・ラケットの科学(従来バランス型と超軽量型の性能比較①)
川副嘉彦,テニスジャーナル,第20巻210号,pp.54-58.2001年
https://kawazoe-lab.com/research/rakettonokagaku-4/
・ラケットの科学(従来バランス型と超軽量型の性能比較②)
川副嘉彦,テニスジャーナル,第20巻211号,pp.54-58.2001年
https://kawazoe-lab.com/research/rakketonokagaku-2/ 
・ラケットの科学(従来バランス型と超軽量型の性能比較③)
川副嘉彦,テニスジャーナル,第20巻212号,pp.54-58.2001年
https://kawazoe-lab.com/research/rakketonokagaku-3/ 
・ラケットの科学(従来バランス型と超軽量型の性能比較④)
川副嘉彦,テニスジャーナル,第20巻213号,pp.54-58.2001年
https://kawazoe-lab.com/research/rakketonokagaku-4/ 
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(参考記事)
・テニスラケットの科学(862):
(備忘録;解説記事 2003年)
材料が変えてきた用具とパフォーマンス
-テニスを例にして-*(その1)
Tennis Equipment and Performance
-Transformation Through Material Evolution –
*川副嘉彦,日本機械学会誌,第106巻,1010号 (2003), pp.13-15.
https://kawazoe-lab.com/ten…/science-of-tennis-racket-862/

* 2026年8月5日 追記:2003年は悪夢の年!
 この記事を書いたのは,2003年1月号,還暦の年です.
 2003年の夏は,決して忘れることのない悪夢でした!
 ウインブルドン近郊の町(予選大会の会場)で開催された ITF(国際テニス連盟)主催の国際会議で論文を発表したところまでは良かったのですが,初日に自分の発表が終わったので,2日目の早朝,会議前に,会場に用意してあったテニスコートでサーブ練習していたら,突然,トスしようと思った左腕が上がらなくて,背中に激痛が走ったのです.
 まともに歩けないし,座っているだけでも背中が痛くて,会議が終わったら,這うようにして帰国しました!
 自宅の近くの大学病院に駆け込んだら,MRIが混んでいて,1週間後になるというので,勤務先の埼玉の整形外科で診てもらったら重症の頸椎椎間板ヘルニアと診断され,遅れたら歩けなくなるとスポーツドクターから言われて,即,入院させられました.
 1か月の入院(ひたすら寝ているだけ)と1か月のリハビリで一応,歩けるようになりましたが,入院直後は,大変でした.
 その年は,たしか,12月ごろ(?)シドニー(?)で開催予定の国際会議でキーノートスピーチを頼まれていたので,医者の目を盗んで,大学にちょっとだけ戻って,辞退の国際電話をしたように思います.それが医者に知れて,こっぴどく叱られました.規則を守れないなら,責任を持てないから,出て行ってもらうと言われました! 予定をすべてキャンセルするのが大変でした!
 結局,12年間ぐらい,テニスはもちろん,歩く以外は,運動ができませんでした!
 約12年後(?)に恐る恐るテニスを再開してからは,また,いろいろ,語り切れないくらいの続きがあるのですが!