テニスラケットの科学(878):
(備忘録:解説記事 2009年)
テニスのトライボロジー*(その6)
スピンのメカニズムとストリング交差点潤滑による性能向上(続き)
*川副 嘉彦、スポーツとトライボロジー:テニスのトライボロジー,トライボロジスト / 日本トライボロジー学会編 54(7) 2009 , pp.452~457,巻頭口絵 p.1.
(注)トライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑)
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スピンのメカニズムとストリング交差点潤滑による性能向上
(続き)
図16は,手首関節と肘関節の衝撃振動の測定位置を示す.

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:図16 手首関節と肘関節の衝撃振動の測定
図17は手首関節の衝撃振動波形の予測結果であり,ボールとの衝突位置はラケット面先端側である.
図17(a) は,衝突速度 30 m/s でフラットに正面衝突する場合であり,図17(b)は通常のトップスピン,図18(c)は潤滑剤を塗ったストリングでのトップスピンに相当する.
図17(b) , 図17(c) の垂直成分・力積はそれぞれ図17(a) の0.85 倍,0.65 倍である.
縦糸が横にずれてストリング面に平行な面内復原力によりスピン量が増大し,接触時間が長くなると,フレーム振動が低減し,ボールとストリングスのたわみも減少してボールに接触した部分だけが窪んでいるように見える.
これらが,「ボールをくわえる感覚が高まる」「ホールド感が増す」「打球感がマイルドになる」などのテスターの打球感に対応すると考えられる.

画像ー2
:図17 ラケット面先端から95mm手前の位置でボールを打撃したときの手首関節衝撃振動予測波形.衝突速度:30 m/s.
5.硬くてツルツルのポリエステルが主流に
表面摩擦の大きいスピンガットと呼ばれるナイロン系より,摩擦が少ないポリエステルのようなストリングスの方が,スピンがかかりやすい.
すでに,数年前から世界のテニスは,ナイロン系に代わって硬くてツルツルのポリエステル系が主流になっており,天然ガットを凌駕している.

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6.おわりに
その後,テレビ番組の製作過程においてスピン挙動の超高速ビデオ映像解析の機会を得た.
この実験においても,試合後の天然ガット(牛の腸)には交差点に深い溝ができており(図2),縦糸の横方向へのズレと戻りによる面内復原力が少ないために,スピン量が顕著に低減し,接触時間も短く,本稿のトップスピンのメカニズムを裏付ける結果であった.
また,アマチュアに比べてプロのトップスピン打撃では,打球速度の差は少ないが,スピン量がはるかに大きかった.
アンダースピン(スライス)に関しても,アマチュアに比べてプロの打撃では,スピン量が多く,打球速度も速く,ボールとガットの接触時間も長かった.
テニスボールの毛羽(フェルト)無しボールとの比較についても興味深い結果を得たが,これらについては別の機会に紹介したい.

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文 献
1) 川副嘉彦:テニスラケットの素材・構造と性能,バイオメカニクス研究,7, 2,(2003) 136.
https://kawazoe-lab.com/research/tenisutakettonosozai/
2) 川副嘉彦:テニスのデカラケ,厚ラケでコントロールとスピードがよくなるのはなぜ,スポーツ工学,2, (2007) 23.
https://kawazoe-lab.com/research/control-and-speed/
3) 川副嘉彦・沖本賢次・沖本啓子:テニスラケットのスピン性能のメカニズム (ストリング交差点潤滑によるスピン性能向上の超高速ビデオ画像解析,日本機械学会論文集,72, 718, C,(2006) 1900.
https://kawazoe-lab.com/research/mechanism-of-racket-spin/
4) Y.KAWAZOE & K. OKIMOTO: Tennis Top Spin Comparison between New, Used and Lubricated Strings by High Speed Video Analysis with Impact Simulation, Theoretical and Applied Mechanics Japan, 57, (2008) 511.
https://kawazoe-lab.com/research/tennis-top-spin-comparison/
著者プロフィール
川副 嘉彦
1944年生まれ.東京大学工学系研究科博士課程単位取得退学.現在、埼玉工業大学工学部教授.工学博士(東京大学).日本機械学会フェロー.専門は機械工学,スポーツ工学,ヒューマン・ロボット学.日本機械学会賞受賞(1995年度).第4回21世紀連合シンポジウム-科学技術と人間-シンポジウム賞受賞(2005年度).主研究テーマは,スポーツとロボットにおける身体の同時並列・自律分散制御.

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(文献)
・川副 嘉彦、テニスのトライボロジー,トライボロジスト / 日本トライボロジー学会 編 54(7) 2009 pp.452~457.
https://kawazoe-lab.com/research/tribology-of-tennis/
