テニスラケットの科学(215):スピンとストリング(13) : プロのストリンガーも誤解しているストリング・テンション :(張り上がり)テンションはラケットの反発性能にほとんど影響しない (反発性能のメカニズム、55ポンドと67ポンドの比較例)
・ラケットの反発性能については、誤解も多いので改めて説明させていただくとして(図1)、テンションの影響を調べた例が図2の左右のグラフです。
グリップ端から70 mmの位置で把持したデカラケ(110平方インチ)にボールが30 m/秒(時速108 km)で衝突したとき
の反発力を計算したシミュレーション結果です。
テンションは55ポンドと67ポンドの2種類です。
・ 右図では、ストリングを強く張った方が反発力がやや低下しています。
ただし、この反発力低下は、従来言われていたようなボールの変形の違いによるものではなく、強く張った方がフレーム振動が大きいことによるものです。
フレーム振動が大きい方が、振動によるエネルギ損失が大きくなるためです。
・ インパクトにおけるラケットの振動には、オフ・センター打撃のときに振幅の大きい2節曲げ振動(基本振動)とねじり振動、センター打撃で大きい3節曲げ振動とストリングの振動などがあります。
そして、これらはそれぞれ振動数が異なっています。
(振動についても改めて解説できればと思います。)
・ 図2の左図は、右図と同じ条件で、フレームの振動からストリングの振動数成分だけを取り除いた場合の結果です。
一般には、二つの図の違いはほとんどないのですが、ストリング面中心付近で反発力に違いがみられるのは、このラケットの場合は、ストリング面の振動数とラケットの3節曲げ振動数が近いために、ストリングを強く張った方がフレームがストリングの振動と一体になってストリングの振動数で振動することによるものです。
実は、このラケットは反発性能に優れているのですが、振動に関しては設計があまりよくないということになります。
しかし、設計変更しないでも、ストリング振動止めをつけると、ストリングの振動数で振動するフレーム振動成分を抑えることができます。
ただし、世界のトッププロと契約しているラケットの場合は、感覚を非常に気にする選手の場合は、設計変更されることが多い(?)ようです。
・ このようにラケットによっては、振動の影響でテンションによって反発性能に微妙に違いがありますが、無視できる程度で、一般に実用範囲のインパクトでは、反発性能におよぼすテンションの影響はほとんどありません。
・ ラケットの解説で「しなりで飛ばす」という表現を時々みかけますが、これはあり得ません!
「しなり」は、「インパクト」により励起される「2節曲げ振動」ですから、「エネルギ損失」になるので、「反発係数が低下」します。