テニスラケットの科学(295):テニス書・テニス雑誌の解説に異見あり(39): 【ストリング選びに役立つ基礎用語】(4)「ポリエステル」
テニスマガジンONLINE 【ストリング選びに役立つ基礎用語】 2020-10-21* は、初心者には親切な記事だとは思いますが、 「スナップバック」、「テンション」、「反発性」、「ポリエステル」の項目の解説には異見あり!です。
(4) 「ポリエステル」
” プロなどパワープレーヤーに向いている。耐久性はあるが、テンション維持率は低い。プロは毎日のようにストリングを張り替えられるため、常によい状態で打てるが、一般のプレーヤーもナチュラルやナイロンに比べ、早い時期の張り替えが推奨される。素材自体が加工しやすく、素材の特性を変えずに色を付けることができるため、いろんなカラーバリエーションをつくりやすいメリットがある。”
と解説されていますが、異見あり!です。
● ポリエステルは、プロなどパワープレーヤーに向いていると書かれていますが、子供や女性や一般プレーヤーにも向いています。
なぜなら、
スピンがかかりやすいほど、接触時間が長くなり、腕に伝わる振動は少ないからです。
スペインの子供たちは、ずいぶん昔から、硬くて、張りにくい安上がりの(?)ポリエステル・ストリングを張って、クレーコートで、ガンガン打っていたという話を聞いたことがあります。
・ 逆に、プロなどパワープレーヤには、ボールとラケットの衝突速度が大きいフラット打撃では、ポリエステルは、腕に伝わる振動がやや大きくなります。
なぜなら、素材が硬い(ヤング率が大きい、あるいは太い)ストリングは、トッププロのように打球速度が非常に速い場合(時速140キロ以上?)、衝突力がやや大きく、接触時間が短くなるので、フレーム振動がやや大きめになるからです。
・ ボールとラケットの衝突における力積(衝突力の時間積分:衝突力と接触時間の積)、あるいは運動量はほとんど変わらないので、ポリエステルの打球速度はナイロンやナチュラルと変わりません。
ただし、スピン量が大きいと、打球の軌道が低くなるので、スイング速度・軌道とラケット面の角度が同じ場合は、ボールの飛距離は短くなります。
・ また、耐久性があり、長く使うとスピン性能が低下しますが、ナイロンに比べると、スピン性能寿命も長く、反発性も維持できるので、ナイロンのようには張替はあまり気にしなくてよいことになります。
・ テンション維持率が低いことが、理由もなく、欠点のように言われることが多いですが、テンション維持率が低いことは、音や振動数が低いという感覚的なこと以外は、何の問題もないはずです。
・ ポリエステルは硬くてツルツルしていて、摩擦が少ないので、張った後のゆるみはありますが、プレイ中には1球1球打球するごとに、張り上がりテンションの何倍もの大きなテンションでガツンガツンと激しく繰り返し引っ張られたり、緩めたりされるので、張った後のテンション維持率が低いことなどは、打球に関しては無視できるレベルです。
繰り返し打撃試験により、相当な回数の繰り返し打撃によっても、反発係数は低下しないと実験結果が海外で報告されています。
・ 振動数や音の高さなどの打感の好みを重視しない場合は、打球にはほとんど影響しないので、テンションロス(テンションが張った時より低下しやすい)は何も気にする必要はないでしょう。
● 図は、ラケット・ヘッドを固定して、マシンでボールを投射して、ストリング面中心に斜め衝突させたときの反発速度成分とスピン(回転)速度を測定した結果です。
ストリング素材は、
ナイロン1:Wilson NXT
ナイロン2:Techfiber NRG2
ガット:Babolat Tonic Gut
ポリ1:Polyfiber TCS
ポリ2:Luxilon Alu Power
ポリ3:Luxilon Original
ポリ4:Luxilon ALU Rough
・マシンから発射するボールの衝突角度は、ストリング面(正面)に対してスピンが発生しやすい斜め40度
(courtesy of Rod Cross)
(注)
180rad/s=約1720RPM(毎分回転数)